Novel


□時計塔へと続く道
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赤だ、白だ、潔癖戦


女王は深紅のドレスが良いと
宰相は純白のドレスが良いと

お互いが色に持っている思い入れと、潔癖意識の違いから生まれたこの言い争いは――。


「アリスに似合うのは間違いなく僕の色!穢れなき純白を身に着けてくれるに決まっています!」

「寝ぼけたことを言うでない!アリスが身につけるのは間違いなくわらわが愛する薔薇色じゃ!」

「なら、赤を着た瞬間に貴方のけばけばしさと、そこに突っ立っている男の胡散臭さがアリスに伝染してしまったらどうしてくれるんですか!?
 細部まで取り除けるとでも?!」

「なら、白を着た瞬間にお前の異常さがアリスに伝染し頭がイカレ、あ奴みたいに放浪癖がついてしまったらどうすると申す!?
 お前こそ細部の細部まで取り除けるとでも言えるのか?!」


先程から謁見室で繰り広げられいて、収まるどころかどんどんとエスカレートしていた。

この城の兵士のことだ。
きっと何処かに転がってやいないかと、くまなく探したことだろう。
何せ自らの首がかかっているのだから。
しかし、次々とこの部屋から退出させられてゆく同僚達が物語る。
"どうも止まる術は転がっていないらしい"
既に誰もが探すことを放っていた。
この場に居てまだ首が飛ぶ予定が立っていない兵士は皆、己に迫る死を悟って静かに佇むばかり。


「………ビバルディ、そろそろよさないか?旦那でもないのだし」


そんなオロオロとした王の言葉も、憤った二人の耳に届かない。
だが、それでもめげずにどっちつかずの諌めを入れ続ける。
ただ黙って突っ立っていると双方に酷くどやされるのだ。
おちおち口も噤めない。
だから王は耐えがたい二つの怒声に耳をつんざかれながらも必死に耳を傾ける。
目に痛い程紅い女王とこれまた目が眩む程白い臣下の舌戦に。


ところで。
根源である当の騎士はというと…、

『あ、陛下。俺は急用ができたんでこれで失礼しまーす』

――ばたんっ


女王と宰相の会話に自分への嫌味が混じりだした途端そう言って、足早にその場から抜け出していた。

それに気付けたのは目を虚ろに揺らした兵士、ただ一人。
役を持たないカードは何を思って、ドアの向こうへと抜ける彼を見たのだろう。







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091229
改訂>100422.

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