Short Story 2
□この場所で
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ゆっくりと階段を下りると、台所からはリズミカルな音がしていて、その音に誘われるように音のする方向に向かった。
朝の挨拶をしようとと口を開く前に、包丁で何かを刻んでいたお父さんが顔をあげてにっこりと笑ってくれた。
「さくらさん、おはようこざいます」
「お父さん、おはよう。おはようお母さん」
いつもの場所に飾られたお母さんの写真。今日の笑顔は桜の花と一緒だ。
「今日はどうしたんですか、いつもよりずいぶん早いですよ」
「うん」
カウンターに用意されていたものをテーブルに運ぼうとすると、重い足取りといっった感じの音がしてきた。
「おは…。怪獣、雪でも降らせるつもりか」
「ほえ」
「いつもギリギリに起きてくるのに」
「さくらだって早起きする日だってあるもん」
手に持っていたサンドイッチが入ったお皿をテーブルに置く。
本当にお兄ちゃんはいつまでたっても、私のことを怪獣って呼ぶんだから。
いつもの腹立たしさを抱えながら、朝食の用意を続けると、お兄ちゃんも、コップや飲み物を運んできた。
「でも、顔色が優れませんが」
お父さんが優しく声をかけてくれる。
本当にお父さんはちょっとのことでも気がついてくれて、すごいなって思う、
でも
「大丈夫」
そんな一言だけを言っていつもの席に腰を下ろした。