Short Story 2
□この場所で
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頬に手を当ててみたけれど、顔色はわからない。
小狼くんが迎えに来てくれるから、緊張して眠れなかったなんて本当の理由は言えないもん。
まだ心配そうに顔を覗き込むお父さんに笑って見せると安心したように朝食を勧めてくれた。
いつもならおいしく感じるサンドイッチもなんだか喉を通っていく塊みたいで、必死に飲み込む。
そんな塊を押し込んでは目を向ける時計。
何度も確認する時間。
約束の時間には、まだまだ早い。
そう思っているのに、なんだか脈が速くなってきて、ぎゅーって握られたみたいになる。
―大丈夫。ちゃんと来てくれる。昨日のは夢じゃないんだから。
自分に言い聞かせながら時計とは反対方向の窓の外に目をやった。
そこから見える白い壁の上に、ふわりとゆれる髪が見えた。
それは一瞬見えたと思うと消えてしまって、幻にも思えたけれど、そちらの方向に意識を向けると、なんだか懐かしいものがこみ上げてきた、カードさんたちとは違う温かな気配。
久しぶりに感じる魔力の力。
その力は、懐かしい思い出と「会いたい」と願っていた人を強く思い出させる。