Short Story 2
□この場所で
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「お、お父さん、さくらもう行くね」
最後のサンドイッチを口の中に放り込んで、流し込む。
あせって立ち上がりながら、足元においておいたカバンを手に持った。
「さくらさん、学校にはずいぶん早いですけど」
「う、うん。でも、もう行くよ」
あせって立ち上がった拍子に、椅子の足がぶつかる。
大きな音と一緒に、あわてて進めようとした足がもつれた。
「おい、大丈夫なのか」
かがみこんで足を撫でると、お兄ちゃんが心配そうに覗き込んだ。
ぶつかった部分がほんの少し痛みを帯びる、それと同時にさっきまですぐそこにあった気配が遠ざかろうとしているのがわかった。
「だめ、まって」
「さくら?」
「お兄ちゃん、大丈夫だから、さくらいくね」
「お、おい」
ぶつかった部分の痛みよりも、またどこかに行ってしまいそうな気配に心が奪われる。
だめ、いっちゃやだ
おいていかないで
何度も噛み締めた言葉があふれそうになった。