Festival
□クリスマス
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ポロポロ落ちる涙。
伏せた瞳からあふれている。
「さくら、悪い子なのかな」
泣くなさくら、そうじゃないから。
喉まで出かかったた言葉を飲み込んだ。
息を呑むように目を開るといつもの天井だった。
−夢。久しぶりに見たな。
眠い状態はいつも。横になれば夢も見ないほどの深い眠りが訪れる。
ーあれは、さくらが4歳ぐらいのときかな。もう十年も前になるのか。
着替えをしながら、その十年が何と早いものなのかと考える。
昔はあんなに下にいたさくらの頭も今では胸ぐらいのところにある。
時の経つのは早い。
朝の6時。
いつもの時間、朝食当番は自分のはずと思ったのだが、台所からはなにやらパタパタ忙しそうな音がしていた。
「あっ、お兄ちゃんおはよう。」
テーブルの上にはケーキ。切り株の形をしたブッシュドノエルが二つ。
仕上げをしたところなのか、ボールの中にはチョコレートクリームが残っていた。
「出かけるのか?」
「うん。教会のクリスマスミサに知世ちゃんが出るの。」
誰と行くのかとはあえて聞かず、ボールの中のクリームを指先につけてなめてみる。
ほのかなチョコレートの甘みが口に広がる。
「あー。つまみ食いした」
「怪獣にしてはよくできてるよ」
「もう」
この調子だと朝食の準備にかかるのに時間がかかりそうだ。
「朝食。さくらがするから」
俺の表情を読み取ったのか、流しの中を片付けながらさくらは上目使い。
何かおねだりをするときにするポーズ。
「だから、帰るの少し遅くてもいいかな?」
ほら来た。
最近繰り返されるおねだりはいつも同じ。
「だめ。門限は6時。それ以降帰った場合は外出禁止」
「クリスマスなのに」
「関係なし」
「むーーー」
ちょっとにらみつけるようなしぐさが子供っぽっくて相変わらずな感じだが、中学生になってもかわいらしさが抜けないのはよいのか悪いのか。
結局朝食は二人で作った。
さくらは朝食もそこそこに、ケーキを箱に詰めたり、なにやらいろいろな準備に忙しそうだった。
自分も朝からバイトに向かう。
今日はいつもより早めに帰ってクリスマスの料理をしなくては。
「さくら、先に行くからな」
リビングにいるさくらに声をかけて玄関を出ようとするが
「まって、さくらも出るから」
赤色のコートを羽織、片手には白いカバンとケーキの箱。
洋服とカバンは見たことのないもの
「似合うかな。知世ちゃんがクリスマスプレゼントにくれたんだ」
両手を広げてコートを見せる。ふわふわの白いボタンと赤い色はサンタをイメージしたのだろうか、フードにもカバンと同じような白いボアがついている。
『サンタ』というよりは『あかずきん』と言う感じに仕上がっている。
「馬子にも衣装」
「それって、ほめ言葉だっけ?」
「つまらない者でも外形を飾るとりっぱに見えることのたとえ。」
「うーー」