et cetera

□If 〜君という花
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薄いピンク色。
緑の葉よりも先に咲き誇る、小さな花。
春を告げるその花は、昔から大切に育てられ、多くの場所に植えられている。
道を歩くと、徐々に膨らみ始めたつぼみが、花開く日はいつなんだろうと、首をかしげるようにうなだれていた。

「もうすこし、か」

家まで続く道の両側に並ぶ桜の木。
日を追うごとにいろづいていて、毎日のように上を見上げて帰るのが日課になりつつあった。
温かくなる日差しに誘われるように、外に出る機会も多くなるのか、昼下がりの歩道には大勢に人たちが花が咲くのを待ち望むように出てきていた。

その中を歩きながら、今夜の夕食を考える。
−春らしくチラシ寿司なんていうのもいいか
材料はすべてあるはず、一人分を作るのにも慣れてきて、冷蔵庫の中身も頭の中にインプットされている。

春の日差しが温かく降り注ぐ。
日本の春は初めてで、湿度の高い春を想像していたが、思ったよりも爽やかで過ごしやすい。
その日差しの中をゆっくりと歩くと、自分の心の中を占める気持ちに驚く。
新緑のような緑色の瞳と、この春の日差しに似た笑顔。
彼女にはこの季節がとても似合う。
春を告げる花と同じ名前の彼女。
そのことを思うだけで、頬が赤くなり、自分のどうしようもない気持ちと向き合うことになる。
ただの気のせいだと何度も思っては、繰り返し浮かんでくる自分の名を呼ぶ彼女。
立ち止まり、2.3度頭を振って顔のほてりを吹き飛ばそうと試みる。
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