et cetera

□君のもの
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来週から期末試験が始まる友枝中学校。
部活もなくなり、早朝の生徒の姿はなくなって、かわりに参考書や単語帳を手に登校してくる生徒が増えてくる。

いつもより早い時間の通学路に姿を見せたさくらは少しあせっていた。
小狼といっしょに登校しようと約束していたのに待ち合わせ時間に遅れそうになっていたのだ。
指定場所のペンギン公園の前まで着いたのに、そこに小狼の姿はなかった。

−もう行っちゃったのかな?

急いで走ってきて、冷たい風にさらされた瞳から涙が出そうになっていた。

「木之本さん。どうしたの?」

不意に声をかけてきたのはクラスの男の子。
さくらの瞳にあふれそうな涙を見て、覗き込むように顔を見た。
そんなに会話をしてこともない男の子が不意に近づいてきたことに驚き、さくらは固まった。

「木之本さん、俺・・・」

言葉は突然に舞い起こった風にさえぎられ、風圧に耐えかねるようによろめき、風が収まり目を開けると自分とさくらの間に今までいなかった人物が立っている事に気づいた。

「小狼くん」

さくらはその背中に飛びつくように腕を回し抱きついた。

「じゃ、木之本さん後で・・・」
「まったく、油断も隙もないな」

その男子生徒が離れてゆく姿を見ながらため息混じりにつぶやくと、背中に抱きついているさくらのほうを振り返った。

「おはよう」
「おはよう、いないからもう行っちゃったのかと思った」
「そんなことするわけないだろ。」

小狼の体から手を離すと左腕の中の小さな影に視線が止まる。

「こいつが、木の上で鳴いていたから」

腕の中で黒い瞳を大きくしている猫をさくらに
見せる。

さくらとの待ち合わせ時間より少し早く着くと、木の上から弱々しい泣き声が聞こえてきた。
少し気になって、上を見上げると細い木の枝の端に小さな子猫。
木の上に上がのが楽しかったのか、上がってしまってその高さが怖くなり足がすくんでしまっているらしい。
ーしょうがないな
木の根元にカバンを置くと、手近な枝をつかみ上へと上る。
小さな体をいっぱいにして威嚇する子猫をひょいと捕まえてその腕の中に納めた。

「何もしないからおとなしくしてろ」

威嚇を続けるその子に言葉をかけると不思議とおとなしくなった。
その様子に安心してさあ降りようとすると、眼下には先ほどの光景。
自分でも気がつかない内に魔力を使って二人を引き離していた。

腕の中でしばらくの間おとなしくしていた猫はちょっと伸びあがると、小狼の肩に前足をかけその頬を少しざらつく舌で何度もなめはじめた。

「こら、お礼はもういいから。」

ちょっとだけ嬉しそうに笑い、その猫を地面に下ろしたが、足元に擦り寄るばかりで一向に離れようとはしない。

「もう、あんなところに行くなよ」

小さな頭の上に置いた手が嬉しそうに目を細めると、猫は名残惜しそうにその場を離れていった。

「いいな、猫さん」
「な、なにが」
「小狼くんにいっぱい触れて、しかも頭までなでてもらえて、さくらも猫になろうかな」

そんなかわいらしい言葉を言いながら、見上げるように小狼の顔を覗き込む。ちょっとだけ困った顔をしながら小狼はその柔らかな髪の上に、さっきと同じように暖かな手を載せた。

「猫なら閉じ込めて、外には出さないかな。」
「なんで?」
「今日みたいなことにならないように」
「?」

−知らない雄猫がそばに来ないように
本当の心の声は心の奥底にしまいながら、蜂蜜色のぬくもりから手を放すと、腕にはめた時計に目をやる。

「さくら、急がないと遅刻する」
「えー。せっかく早起きしたのに」
「ほら、行くぞ」

小狼からさりげなく伸ばされた手に自分の右手を乗せながら、小走りで学校までの道を急ぐ。

それはありふれた朝の光景。

おわり
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