et cetera

□If  〜冬の日
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秋がすぎ、落ち葉のなくなった木々たちが時折吹く風に寒そうにその枝を揺らす

日本よりも暖かな土地に住んでいたせいなのか、この寒さは体験したことがないもので何かというと体が動かなくなる。
初めてつけたマフラーは冷たい寒さから衿元を守ってくれる。
学校に向かう道には同じような制服に身を包んだ生徒たちであふれていた。

日本に来てもうすぐ半年
一人の生活にも慣れ、毎日通う学校にも何人かの話ができる人間ができた。
『友人』と呼ぶには日が浅すぎて、お互いを知らないことが多すぎてなんとなく遠い存在のようにも思えるが、『山崎』と言う男だけは何事にも動じない性格なのか気さくに話しかけてくれ、何とか教室で浮くことがない状態でいた。
そういえばもう一人何かというと声をかけてくれる人物がいた。
校庭に集まっている生徒たちに中にまざって立っていると

「李くん、おはよう」

いつもなら遅刻ぎりぎりに駆け込んでくる彼女が珍しく集団の中にいて、隣にいる髪の長い友人と話し込んでいた。
その会話を中断させて、後ろを向くと笑顔といっしょに朝のあいさつをしてくれた。

「おはよう」

反射的に出た日本語であいさつをする。声をかけてくれる彼女『木之本 桜』は香港にいるいとこ以外では初めてして親しく会話をする女の子かもしれない。

「李くん。今日のスケート教室楽しみだよね。李くんはスケートしたことある?」
「いや、ない」
「そうなんだ。私も初めてなんだ、知世ちゃんはしたことあるんだよね」
「はい、母がそういったスポーツが好きなもので、よく連れて行ってくださるんです」
「いいなー」

三人での会話。多くは木之本のほうから話しかけてくれ、一人で俺や友達の大道寺を巻き込んで成立していくが
このほんのちょっとした時間は一人でいることの多い俺にとってはほっとするひと時なのかもしれない。
くるくると変わる木之本の表情を見ていると単調な生活も楽しく感じられるような気がした。

「日本の学校は行事が多いな」
「そうかなー。でもそういうのが多いとたのしいよね。」
「さくらちゃんは、そちらの方がお好きですから。」
「うん、学校以外の場所に行ったりするの大好き」

その言葉で今日の登校時間が早い理由がわかった。
きっと、楽しみで早起きしてしまったのだろう。
木之本らしい行動に思わず笑ってしまいそうになる。

「おはよう。みんなきているか」

先生の声が騒がしかった校庭に響き渡り、今日の始まりを告げた。
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