Clap Noel

□ひとりじめ
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灰色の雲から流れ落ちる雫が描く雨の筋。
昨日から降り続いた雨は止む気配もなく、友枝町に降り注がれる。

透明な窓も向こうの景色。
低い雲を見上げながらさくらは声を上げた。

「雨、止まないね」

小狼はその言葉にほんの少し首をかしげながら、目を落としていた本から顔を上げた。
座りなれたソファーに腰を沈め、休日のゆっくりとした時間を過ごしていた。
雨が降っていなければ、新しい傘を買いに行きたいとさくらはいっていて、いつまでも降り続く雨に半ばあきれたような声にも思えたが、さっきさくらが発した言葉はどこか楽しそうで、雨が降っていることを喜んでいるようにさえ思えた。

「まだ降るのかな」

楽しそうな声は続いていて、翡翠色の瞳もどこか楽しそうに空を見ている。
読みかけの本を膝の上に置いて、小狼はさくらに声をかけた。

「雨が降って残念じゃないのか?」
「ほえ?」

振り返りながら、丁度背中の方向にある小狼に顔を向けると、雨の中に不釣合いな日の光のような笑顔を向けた。

「残念だよ?」

それでも語尾はどこか楽しげで、どこが残念がっているのか小狼には理解しかねていた。

「雨は降ってるし、小狼くんとのお出かけはできないし」

小狼の隣に軽い足取りでやってくると、短いスカートを揺らしながら柔らかなクッションの上に腰を下ろした。

「でもね、雨の日はきらいじゃないんだ」

隣に座ると少し上にある小狼の顔を覗き込むように見つめながらニコニコとその顔を見つめた。
翡翠色の瞳に吸い込まれそうな思いを抱きながらもぎりぎりのところで踏みとどまると、その呪縛から逃れるように顔を背け、
飲み込んでしまいそうだった言葉を続けた。

「き、きらいじゃないって・・・」
「ん?だって『ひとりじめ』できるんだもん」
「ひとりじめ?」
「そう、雨の音がねぜーんぶ隠してくれるの」
「?」
「雨音の中で二人だけ、世界中に二人だけみたいなんだもん」

町にあふれる雑音を消し去るように降る雨。
優しく降り続く雨は恋人たちを包み込み二人だけの時間を作り出す。

「だからね、小狼くんを『ひとりじめ』できるから嫌いじゃないの」

水を受けて美しさを増す新緑のようなさくらの瞳の輝きが小狼の自由を奪う。
引き寄せられられるように淡いピンクの唇を重ねる。

甘い吐息も、ささやきも、すべてを包み込んで二人の時間をつむぎだす。

fin

2011.6.11

梅雨の間に書き上げられてよかった(笑)
このまま来年を待つのかと思いながら作ってました。
そんな話がゴロゴロとPCの中に眠っているので^^
もう少しがんばらなくっちゃ。

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