Short Story 1

□夕日 〜syaoran
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「あのね、知世ちゃんが遊園地の招待券くれたの、一緒にどうかな」

日本に帰ってきて、一ヶ月。
さくらの側にいることにまだ戸惑いがあって、お互いに顔を会わせるたびに、赤くなったり、うつむいたりして、二人きりで出掛けることも気恥ずかしさがあって、休日も別々に過ごしていたりした。
そんなある日に、普段なら視線を合わせて通りすぎるさくらが、教室の中に思い悩んだ顔でやって来ると、山崎達と会話をしていた俺の袖を引き、その場から少し離すとなんだか不安が混ざった声でそういった。

「ご用とかあって、だめならいいんだけど?」
「いつ?」

戸惑い気味の言葉、久しぶりにすぐ側で見る彼女の姿に鼓動が高鳴る。
そんな自分に気付かれないようにさりげなく聞いてみる。
さくらは一瞬で明るい顔をすると、少し興奮気味に弾むような声を出す。

「今度の日曜日はどうかな?」
「多分、大丈夫」
「じゃあ、約束。」

まぶしいぐらいの笑顔。
こんなかわいい顔をした彼女からのお願いをどうしたら拒否できるだろう。
どんなことをしても叶えてあげたいと思うに違いないのに。
そう思いながら、さくらの顔を見つめた。
そのまま、少し赤らんだ顔をした彼女の胸元に目をやると、いつもならまっすぐに落ちている赤い布が、ほんの少しゆがんでいる。

「さくら。さっきの時間体育?」
「ほえ?」
「タイが曲がってる」

細いタイの位置が収まりのいい場所に直してやる。ほんの少し触れただけなのに心臓の音が聞こえそうなぐらい早く動き出す。

「ありがとう」

そう言ってうつむくさくらに顔をよせると、ふわりといい香りが鼻腔をくすぐる。

「夜に電話するから」
「うん。待ってる」

さくらにだけ聞こえるように小さな声でそういうと、大きな目を見開いて同じように小さな声で相槌を打ってくれた。
すれ違ったり視線を合わせるだけだとなんだか照れくさいのに、すぐそばで話をすると、その恥ずかしさが消えて嬉しい気持ちだけが心の中を占めてゆく。
お互いがそばにいるその嬉しさ。
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