Short Story 1
□お菓子
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日曜の夜、キッチンに香る甘い香り。
「こんなもんかな」
目の前に並ぶ上手に膨らんだシュークリームの中に、冷やしておいたカスタードをあふれないように入れていく。
三回ほど挑戦して、できたのはほんの数個。
受け取ってくれたときの表情を想像するだけで楽しくって、時間のかかった作業も全然苦にならなかった。
「上手にできましたね」
カウンターの向こうから今日の手ほどきをしてくれたお父さんが顔を出して、その出来栄えをほめてくれた。
「うん」
「怪獣が作ったにしてはな。」
「お兄ちゃん」
その脇からバイト帰りの桃矢がひょっこりと顔を出して、さくらの目の前に並べられた出来立てのシュークリームを口に運んでいった。
「明日、小狼くんに持っていくんだから、あんまり食べないでね」
その様子をみて口をへの字にして言ったさくらだったが、その言葉の後からした声にはっとして、顔を赤らめた。
「じゃあ、僕は食べられないのかな」
「雪兎さん」
「雪、さくらはけちだから俺たちには食わしてくれないらしいぞ」
「そんなこといってないもん、雪兎さんよかったら食べてください」
カスタードを詰めたばかりの物が乗ったお皿を差し出すと、さっと出てきた手がお皿ごと奪っていった。
「だ、そうだ。雪ありがたく頂こう」
「それ、全部じゃ・・・。」
「ありがとうさくらちゃん、お腹すいてたんだ」
「い、いえ。どうぞ・・・」
雪兎はニコニコとしながらお皿の中のシュークリームを口に運んでいく。
-全部じゃなかったのに。
手元に残ったのは、クリームを入れてなかった2個だけ。
たくさん食べてほしかった気持ちを押し殺しながら、残ったものにクリームを詰めて、粉砂糖をふりかけ、崩れないようにアルミ容器の中に入れると、これ以上食べられないように紙袋の中に詰め込んだ。
-これで大丈夫。
冷蔵庫のドアを閉めて、一安心すると、明日の朝が楽しみで、さくらの顔は始終にやけていた。
「小狼くーーん。」
朝の待ち合わせ場所に走ってたどり着いたさくらは、手に持っていた紙袋をいつものように先に待っていた小狼の手の上に置いた。
「シュークリーム作ったんだ。小狼くん食べて」
「ありがとう」
ニコニコしながら、さくらは想像していたのと同じ小狼の反応に満足していた。
照れたような、それでいて嬉しそうな顔。
これを見るために昨日は一生懸命にがんばったんだもん。さくらはそう思いながらも、少しだけ曇った顔を見逃さなかった。
「どうしたの?」
「さくら、これ今朝つくったのか?」
「違うよ、昨日。」
「にしては温かいんだけど・・・。」
柔らかく、そして人肌のような温かさが小狼の手には伝わってきていて、シュークリームにしては思いその重量も当然のように気になった。
「そんなはずないもん。今朝まで冷蔵庫に入れてたんだよ?」
そういいながら、がさゴゾと折りたたんであった袋の口をあける。
見えてきたのは、薄茶色に白い粉のかかったものではなくて、すごく黄色のふわふわのもの。
「ケロちゃん!!」
ケルベロスは袋の中で目を回しながら横たわっていた。当然さくらの作ったものはお腹の中で・・・。
「もう、ケロちゃんは一週間おやつ抜き!!」
青空の広がる空に向かってそんな声が響いたのは言うまでもない。