Short Story 1

□雨
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突然に振り出した雨
雨音は次第に激しさを増し、軒先に流れ落ちていくしずくは雨粒から雨筋へと姿を変えていった。

今までの青い空がうそのように曇り、あっという間に姿を灰色に変えると、生ぬるい風とともに雨を降らせ大地を湿らせる。
夏の日差しで乾ききっていた大地は嬉しそうにその雨を受け入れていた。

「びっくりしたね」

突然の夕立
放課後のクラブを終えて一緒に帰っていた小狼とさくらの二人は、一瞬のうちに激しさを増した雨に苦笑いしながら、一軒の店の前に立ち尽くしていた。
目の前を雨に当たりながら通り過ぎる人、同じように軒先に立って雨がやむのを待つ人。
傘を差しながらゆっくりと街中を歩く人・・・。
たくさんの人が二人の前を通り過ぎていった。

「ゲリラ豪雨て奴かな」
「そうだね」

小狼はまだ髪にまとわりつくようなしずくを頭を振って落とすと、ポケットからハンカチを取り出し、隣に立つさくらの頭に残る雨をぬぐってっやった。
細い髪に残るしずくが、みるみるハンカチにしみこみ色を変えていく。
髪に触れられるのがくすぐったそうに笑いながら、さくらは小狼の顔を見上げた。

「ありがとう。小狼くんもぬれてるよ」
「ああ」

自分のハンカチを取り出すと少し上のほうにある小狼の頭にあてがった。
向き合うような形でお互いの髪に手をやると、小狼は自分の頭に手を伸ばして立つさくらの姿にどきりとした。
雨にぬれた白い制服が体にまとわりつき、雨を含んだ生地はその下にあるだろう細い体を被うものを浮き上がらせていた。
細い肩紐と、その下にある小さなふくらみも、制服を通してもわかるぐらいに

「早く止まないかな」

いっそう雨脚を強める空を見上げながらそういったさくらは、押し黙ってしまった小狼の方に目をやった。
少し長い前髪が、うつむいて立つ小狼の表情を隠している。

-どうしたんだろう

そう思いながら、その顔を見ようと覗き込むと、突然小狼の大きな手がさくらの細い腕をつかみ、降りしきる雨の中へと駆け出した。

「しゃ、小狼くん」

突然の行動に戸惑いながら、一歩先を掛ける小狼の背中を見つめる。
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