Short Story 1

□月
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仲秋の名月。お団子とすすきを飾って月を見よう。青白い月がお願いを叶えてくれるかも。

カタン

天窓を少し開けて外に顔を出してみる。身震いするほどではないけれど少しだけ肌寒さを感じる。
「ねーねー。ケロちゃん見て。お月様まん丸!!。」
さくらは天窓から見える月の綺麗さに感嘆の声を上げた。青白い月は星の輝きをすっかりと隠している。
「そんなもんより早く団子食べようや。」
机の上にすすきと一緒に置いてあるお団子をものほしそうな目で見る。
「ケロちゃんて、本当に食い意地張ってるよね。」
今日は仲秋の名月。
さくらはお父さんが作ってくれた淡い紫や黄色のお団子を飾って月見をしようと思っていた。それなのにクロウカードの守護者でもあるケルベロスはそんなものでお腹は膨らまないとばかり、今にも食べる勢いだ。
「なーなー。さくら。」
お皿の前であぐらをかき羽をパタパタさせては上下に移動。さくらの言葉を待っている。
「もう、しょうがないな。食べてもいいよ。」
「よっしゃー。」
言うが早いかお団子を口の中に放り込んでいく。
「何や、このお団子不思議な味がするな。」
「お水の代わりにジュースを入れているんだよ。紫がグレープ、黄色がオレンジ、白っぽいのがアップルね。」
「へー、白い団子より甘くてわいはこっちのほうが好きや。」
次々とケロちゃんの口の中にお団子が消えていく。
「私のも、残してよ!!」
「はへ、ふふれ。」
本当は「わかってる」とでも言いたいのだろうが口に入れたお団子のせいで意味不明なものになっていた。
さくらは窓から見える月をもう一度見上げる。
(怖いぐらい綺麗・・・。)
口には出さなかったが月明かりに飲み込まれそうな感覚に陥る。
(満月の夜は嫌いじゃないんだけどな。でも、今日は・・・)
さくらは窓からは到底見ることのない遠い異国にいる一番好きな人のことを思う。
(小狼くん)
月の明るい夜は小狼のことを思い出す。月明かりがやさしくて暖かい彼の魔力に似ているから。
でも今日は強すぎて会えないことをいつもより強く感じさせる。
「声、聞いたいな・・・。」
小さな声でつぶやく。誰にも聞こえないように。
「なんかゆうたか?」
「う、ううん。」
赤くなってしまった顔を隠すように首を振り、お皿の横で空になった湯飲みを手にする。
「ケロちゃん、お茶ないね。入れてくるよ。」
言ってしまった自分の弱さに驚く、ほんの少し会えないだけと自分に言い聞かせていたのに。声を聞いたのはずいぶん前のような気がする。

トントントン

リズム良く階段を降りて一階につくと自然と廊下にある電話に目が行く。

「電話は一回30分まで。さくらからしたら次に小僧からしてくるのを待つこと」

兄である桃矢が決めたルールーだが、さくらは素直に従っていた。電話をすることで家族に迷惑はかけたくなかったから。
前回はさくらからかけた、だから電話が掛かってくるのを待つしかない。
「お茶入れなくちゃ。」
急須にお湯を注いで湯飲みに入れる。ほんのちょっとの時間なのに廊下の電話が気に掛かる。
暖かい湯飲みを持った瞬間に廊下の電話が早く出てほしいと言うように鳴った。

ドキドキしながら受話器を持ち上げて電話にでる。一番声の聞きたい人であることを願いながら。
「はい。木之本です。」
「・・・さくら?」
受話器の向こうは思った通りの人物で自然とうれしくなって顔が赤くなる。
「うん、さくらだよ。今ねお月見していたの」
(お月様にね小狼くんの声が聞けますようにってお願いしたんだよ)
声には出さない胸のつぶやき。

今日は満月

不思議な力を持つ月が願いをかなえてくれる日。




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