Short Story 1

□星降る夜に
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「そろそろ来るかな。」
深夜3時。仮眠を終え、リビングで本を読んでいた小狼はそばにあるテーブルに本を置き、キッチンへと向かった。
 ベランダの窓の鍵は開いていてこれから現れるだろう人物を迎え入れる準備は万端だ。
 日本に帰ってきてから数年。高校生なった彼女だが、相変わらすベランダからの出入りをやめる気配はない。
 男の家に夜やってくるのはどうかと思い何度も注意したが、「大丈夫」と言って取り合わない。

 しばらくすると羽音と共に待ち人はやってきた。
「小狼くん、起きてる?」
深夜ということもあってそうっとベランダの窓を開けてさくらは顔をのぞかせた。
小狼はキッチンで出来上がったココアをカップに注いでいた。
その姿に桜は目を丸くして
「何でくると思った?」
自分が着くと同時に入れたてのココアを差し出す小狼に聞いてみた。
「二、三日前に話してたろ?
それに今日の夜は雲もない晴天。明日は曇りの予報。
今日を逃すとチャンスはないし、桜のことだから平日だけどお構いなしかな。と」

自分で入れたココアの味を確かめ確信に近かった予想が外れていなかったことに満足する。
「10分ぐらい前に魔力も感じたしな。」
小狼はそういうとリモコンを使いリビングの電気を消した。
暖かなカップを両手で包み込むように持つさくらの脇をすり抜けベランダに出た。
「ほら、見るんだろ。流星群」
「うん」
10月に見られるオリオン座流星群をさくらは楽しみにしていて、この時期になると決まって小狼の部屋に見に来ていた。

 去年はあいにく見られる時期に曇りが続き残念がっていたが、今年は天気も良く月も新月後なので暗く絶好の条件がそろった。
小狼が住むマンションのベランダからはオリオン座が良く見えた。
二人はベランダに立って目を慣らすように夜空に目を向けた。

真っ暗な空に弧を描くように星が流れ落ちる。
数分に1個、時には2個。
放射線状にいろいろな星が瞬いては消えていった。

「あ、星が降ってきた。」
空を見ながらさくらはつぶやいた。
(前にも聞いたな・・・。)
小狼は初めて一緒に流星群を見たときのことを思い出していた。


真夜中にクロウカードの気配を感じて家を飛び出た。気配がするのは友枝小学校。強い気配のする屋上に行くと立っていたのはさくらだった。
「李君」
眠い目をこすりながら自分の名を呼んだ。
その当時はクロウカードを集めている途中だった。
カードを集める日々の中で湧き上がった、彼女に対する感情に戸惑っていた。
それがどんな気持ちなのか自分にもわかっていなかった。
ただ顔を見ると体温がほんの少し上昇する。
「こんな時間にどうしたの」
「いや、クロウカードの気配が・・・。それよりお前こそどうしたんだ。」
「今日テレビでね。たくさんの流れ星が見られるって。」
それを見に来たのか。と妙に納得した。寒空の下フライの魔法を使い、一番星が見えるだろう小学校の屋上に。

「星が降ってきた。」
空を見てそうつぶやいた。
実際は落ちていると思うのだが、彼女が言うとそのほうがぴったりとした表現に思えて、黙って二人で星を見た。

「変わらないんだな」
空になったカップを見つめ小狼はそうつぶやいた。
少女から大人の女性に。体は成長し
周りの人たちが彼女にかける言葉も「かわいい」から「きれい」になった。
でも変わっていない部分もちゃんとあって、そんな彼女を小狼はいとおしく思った。

さくらは小狼の顔を覗き込んで
「何が、変わらないの」
いつの間にか自分を見下ろすようになった彼の顔を見つめた。
「星を見て喜ぶところ。」
小狼は微笑むとさくらの唇にそっとキスをした。

「さ、そろそろ帰らないと、明日寝坊するぞ。」
「大丈夫だよ」
ガッツポーズをして、自信満々のさくらを見ながらこういうところも変わっていないと小狼は思った。

自信満々で言いながらきっと明日は遅刻寸前に学校に滑り込むことだろう。



→あとがき
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