Short Story 1

□微熱
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「ずいぶんお熱があるようですわ。」

額に触れる知世ちゃんの手が冷たくて心地いい。

「こんな時期に風邪なんて、何かあったのか?」

心配そうな小狼くんの声がその後に続いた。

保健室のベットの上に座って体温計が鳴るのを三人で待った。
1時間目が終わったあとすぐに、知世ちゃんと小狼くんがやってきて、すごく怖い顔をして「体調悪いだろ」って言われた。
そのまま引きずられるように保健室に

ピッピッ

体温計の音が静かな部屋に響く。

「38.5 重症だな」
「帰ったほうがよろしいですわ」
「今日は藤隆さんも、兄貴も遅い日だったな。」
「うん」

そんなに熱あったんだ。家を出たときはたいしたことないと思ったのに。
囲むように立つ二人を覗き見る。

「とりあえずここでしばらく寝てろ。
次の時間テストがあるから帰れないが、それが終わったら一緒に帰るから」
「私が、先生に言っておきますから」

本人そっちのけで会話が進んでいる。

「さくらちゃんはゆっくり寝ていてください。」

そういうとベットの周りのカーテンを引いて保健室を出て行った。
(最近遅くまでおきてたし、疲れたから熱が出たのかな・・・)
体の節々が痛い。頭もボーとしているので、上靴を脱いでもそもそとベットにもぐりこんだ。

もうすぐ小狼くんの誕生日。
小狼くんが日本に帰って来てはじめて二人で迎える大切な日。
お祝いにケーキを作ろうと思って、密かに練習している。
なかなか上手に作れなくて、毎日ケロちゃんに試食してもらっている。

- だって、おいしいの食べてほしいもん。

ガラガラ
ゆっくりと保健室のドアが開く音がした。

「失礼しまーす」
「先生、いないね」
「薬ほしいんだけどな。」
「チャイム鳴るまで待ってみようか」

「そうそう、見た昨日」
「見たって何を?」
「李君の水着姿。」
「あーーー!見た見た。」
「プールサイドに立てるの見えた。」
「かっこいいよね」

小狼くんの水着姿??
夏の体育の授業には2回だけ水泳の時間がある。
男女は別々にプールに入るのにどうして?

「そうそう、ほっそりとしてるのに筋肉があるっていうのか、制服の上からだとわかんないよね。」
「うん、腹筋とかも割れてるんだよ」
「やだ、どこ見てるのよ」

笑い声が続いていたが、それをさえぎるようにチャイムが鳴り始めた。

「先生帰ってこなかったね。」
「また後で来るよ。次テストだし急がないと」

扉の閉まる音。

- 小狼くんのクラスの女の子たちだったんだ。

聞くつもりのなかった会話に胸が痛む。

『かっこいいよね』

クラスも違って、体育の授業も一緒じゃなくて、会える時間は本当に少なく感じる。
水着姿の小狼くんなんて知らない。

でも、優しい手は知ってる。

暖かくって、でも硬い手のひら、しなやかで長い指。

-大好き

手をつないだときのことを思い出すだけで顔が赤くなる。
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