Short Story 1

□いつか
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その日一日さくらの様子はおかしかった。

「おはよう」

いつものようにあいさつをする小狼に、はじけるような笑顔を向けることなく、目が合った瞬間、沸騰したように赤い顔をして逃げていった。
その後少しでもそばに近づこうものなら、駆け足で逃げていった、同じ教室にいるにもかかわらす、休み時間その姿を見ることもなく、授業中の後姿すら、小狼からの視線を避けるように見えた。

「李君、木之本さんに何かしたの?」

細目をした友人は、心配するように、からかうように小狼に声をかけた。

「こっちが聞きたい」

ため息混じりに本音を言うと、山崎は同じような背格好の小狼の頭をぽんぽんと叩くと。

「女の子の気持ちは複雑だからね。」

人生の先輩のような台詞を小狼に投げかけた。

−何かしたのだろうか

小狼は昨日までのさくらの様子とすっかり変わってしまったことにひどく動揺していた。
昨日までは、休み時間のたびにたわいのない話しをし、夕方は一緒に帰った。
何も、変わったことはしていない。
妙にリアルな夢を見て戸惑いはしたが、それだって夢の中の話であって、さくらが知るわけわない。

「き、今日は知世ちゃんと帰るから。」

引き止めることもできない距離でそういうと、さくらは放課後の教室を後にした。

完全な拒絶

触れることも、話すこともできない。
そのことがひどくつらかった。離れていた間にすら感じることのなかった痛み。
さくらに拒絶されることがこんなにも自分を弱くもろくさせる。

来週から始まるテストに向け、教室の生徒たちは足早に去っていった。一人残されてしまった小狼は薄暗くなった校庭を見下ろしていた。

夕暮れから闇に変わる空、少しずつ消えてゆく茜色が自分の心の中と同じに思えた。

どうすれば、今までのような笑顔を自分に向けてくれるのだろうか。答えの出ない問題は小狼を悩ませる。
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