Short Story 1

□いつも、いつでも
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ピンポーン

休日の朝静かな部屋に突然鳴り出すチャイムの音。今日訪れる人物はわかっているので、インターホンに出ることなく、鍵を開け招き入れる。
いつもなら、開口一番朝のあいさつと、自分の名前を呼ぶのに、今日はなぜか沈んだ声。

「どうした。買えなかったのか?」

『流行っているふわふわバームクーヘン買ってくるから!いっしょにお茶しようね。』

そう楽しそうに言っていたのは昨日の別れ際の話。

「買えたんだけど、買えなかってっ言うか。うーんとね」

言葉を捜しながら、玄関先にたつさくらはなんだか少し嬉しそうで、さっきの沈んだ声とは対照的だ。
そんなさくらは言葉を捜しながらリビングに向かい、いつものようにお気に入りのソファーに腰を沈めた。

「あのね。バームクーヘン買えたの。一日限定100個だから朝早起きして並んだんだよ。でも、一番最後だったの」

ソファーにあったクッションを自分の胸に押し当ててそのときの様子を思い出し嬉しそうな顔をする。

「そしたらね、買い終わってお店出ようとしたら、女の子が来たの。バームクーヘンありませんか?って。」

「あの、すみません今日のバームクーヘンってありませんか?」

立ち去ろうとしたレジの隣に立つ女の子はそう店員さんに尋ねながら、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「ありがとうございました」

店員さんのあいさつといっしょにお店を出たものの、後ろから同じように出てきたその子のことがきになって、足をふと止めてどうしたのか聞いてみた。

「お母さんが、今日誕生日でここのが食べたいって言うから買いに来たんです。」

自分の手の中にある財布をぎゅっと握り締めるとさっき買ったばかりの手に提げた包みに視線を移した。

「あの、あの、それ」
「これ?」

うつむく女の子は本当に今にも泣き出しそうで、手にした包みに視線を向ける。
しばらく考えたものの、その答えはすぐに出ていて

「いいよ。譲ってあげる。」

包みを女のこの方に差し出すと、さっきまでの涙がうそのようにひいて、明るい笑顔が戻ってきた。
明るい笑顔で何度もお礼を言ってくれたそのこを見送って、小狼の家に向かった。
いいことをしたなっと思う反面、小狼といっしょに美味しいものを食べれなくなって残念な気持ちといっしょに。


「ごめんね。せっかく約束してたのに」

事の顛末を話し終わったさくらは、クッションを抱えたまますまなそうな顔をして隣に座る俺の顔を見てきた。

「いいよ、誕生日は今日しかないんだから」
「うん。」

それでもせっかくの計画が台無しになってしまったことを思って、さくらは少し沈んだ顔をしていた。

「これから作ったら3時のおやつにはなるだろ」

そんなさくらの頭に手をやって立ち上がり、キッチンに向かう。

−確か、材料はあったはず

「バームクーヘンは無理だけど、マフィンかスコーンぐらいならできる、どっちがいい?」

シンクの前に立ち、頭だけが見えるさくらに声をかける。その頭が急にキッチンのほうに向き直り、疑問を投げかけた。

「作ってくれるの?」
「時間もあるし、どっち?」
「うーんと、えっと、マフィン!」

いつもみたいな笑顔で答えるさくらを見るとこちらまで明るい気持ちにさせられる。

「じゃあ、ちょっと待ってろ」

材料をそろえていざ作業に取り掛かろうとしたころ、さくらがそっと隣に立ってシンクで手を洗い出した。

「手伝うよ」

そう言うと小麦粉を手に取り、ふるい始める。

美味しいものをいっしょに食ることも
いっしょにに何かを作ることも同じように幸せを感じる。
そばにいること、隣にいることが当たり前に思えても

「バームクーヘン食べれなくって残念だったけど、小狼くんといっしょにお料理するのもいいね」

振るい終わった小麦粉をボールに入れながら少し照れた表情でそう言ったさくらはきっと同じ気持ち

いつも、いつでも二人でいる、それがきっと幸せ

おわり
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