Short Story 1
□春
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「昨日、苺鈴ちゃんからメールが来ましたの」
登校中に偶然会った小狼に知世はそういって声をかけた。
「そうか、俺のところにも来たよ。今回も大道寺の家に行くと言うことだけだったけれど。」
「そうなんです。私も楽しみにしていますのよ」
「いつもすまないな、苺鈴が迷惑かけて」
「迷惑なんてかけてないわよ?」
突然会話の中に割り込んできた甘い声は、二人のよく知っているもの。
「いつも喜んでくれてるもの」
小狼と知世の両方を見比べながら、黒い髪を揺らすと
「ところで、木之本さんは一緒じゃないの?」
一番会いたいらしい人物の名前を言うとその近くをキョロキョロしだす。
「苺鈴!」
「苺鈴ちゃん」
「おはよう。木之本さんは??」
同じ質問を繰り返しながら、ひどく驚く二人を横目に校庭を見回す。
「来るのは明日じゃなかったか?」
「だって、早く来たかったんだもん。」
「学校は?」
「今まで休んでないんだから。一日ぐらい大丈夫よ」
腰に手を当てて胸を張りながら余裕の表情を見せる彼女。金曜日の今日から来ていれば確かに土曜の朝に来るより,より多くの時間をしばらくぶりで会う友達と過ごせるだろう。
「苺鈴ちゃん!!」
「木之本さん」
部活の朝練習を終えたさくらは、いち早くその姿を視界に納めすばやく駆け寄ってきた。
「びっくりした。どうしたの?」
「遊びに来たのよ」
「そうなんだ。でも、今日は金曜日だよ?」
「ふふ、日本の中学校の見学しようと思って。どんなことしてるのか見て見たいじゃない。」
「おい、苺鈴」
「小狼も先生に言ってよね。いとこだし大目に見てくれるわよきっと」
その自信がいったいどこから来るのかはわからないが、とにかく小狼は先生に事の次第を話し先生の許可を取り付けた。一時間目の授業が始まると、『香港から黒髪の美少女が来ている』と学校中のうわさになった。
休み時間のたびにどこからともなく窓の外には人だかりができて、その少女を受け入れた教室は落ち着かない様子となった。それでも小学校のときに顔見知りになった子たちが、集まり苺鈴を取り囲んだりもしていた。その輪の中に、さくら、知世も加わり休み時間ごとに繰り広げられる話に終わりはない様だった。
放課後になると、さくらとと知世は名残惜しそうに部活動に向かい、その終わりを待つ小狼と共に苺鈴はいた。