et cetera

□いっしょに
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−さくら?
いくつもの壁で仕切られ、迷路のようになっている教室の中、憮然とした表情で立っていた小狼はその絶叫とも言える叫び声を聞くと、自分に任されていた持ち場を離れ、彼女の声のするほうに向かった。
委員長の山崎が嬉々として作り上げたホラーハウスはそのところどころにいろいろな仕掛けを持った生徒が待ち受けていた。中には小狼でさえ暗闇でできることなら会いたくはない。と思わせるような格好をした生徒も、確かその人物は入り口を入ってすぐの位置に待ち構えていたはず、そう気づいた小狼の足はさらに速くなった。

「こないでーーー!!」

木槌を振りかざし近づいて来る女から必死で逃げようとするが、さくらは足に力が入らず立つこともできない。
一歩、また一歩と近づいてくる。
顔をには薄ら笑いまで浮かべ、恐怖でおびえきったさくらに襲い掛かろうとしていた。

「やだーー」

体を小さく折りたたみ、顔を伏せた瞬間、暗幕を跳ね除けるように飛び出してきた小狼は、何も言わずさくらを抱えあげるとそのまま来た方向に向きをかえ、消えていった。
その後には呆然と立ち尽くす女の姿。

「さくら?」

自分の腕の中で小さく震える彼女に声をかける。さくらは大きな目にあふれそうな涙を浮かべながら小狼の首に手を回した。

「怖かった」

少し震える声、元来怖がりのさくらは普通ならこんな場所には足を踏み入れることはないだろう。
震えの収まってきたさくらを、舞台裏に詰まれた机のひとつに下ろすと、その涙を拭きながら優しく声をかけた。

「ごめん。探しに来たんだろ?山崎には待つように伝えてくれって、言ったんだけど会わなかったか?」

小狼の優しい微笑を見て、思いがけない恐怖から開放されたさくらは、ちょっとだけ笑って

「会ったけど、お話の途中で中に入っちゃった」
「人の話は最後まで聞くように。」

そういうと、少し笑って小狼は机の上にちょこんと座ったさくらの姿を眺めて、不思議そうにつぶやいた。

「さくらのクラスは喫茶店だったよな?」
「うん、猫喫茶」

さくらの着ている服は、レースのついたニット地のタートルネック、長い袖先にも同じようなレースが施されている。首元には金色の鈴がついていた。ふんわりとしたスカートからは短くほっそりとした足が顔を見せていた。そして、かわいらしい白のエプロンをつけていて、確かにウエートレスに見えないこともないが、そのスカートの後ろからは細い尻尾が覗いていた。

「知世ちゃんが作ってくれたの。猫耳もちゃんとあるんだよ。でもこれって、初めて会ったときのバトルスーツに似てるよね。」

スカートの端をちょっとだけ摘み上げて小狼の方に笑いかける。

「うん。いや、だけど当番は午後だろ?」
「宣伝のために朝から着てって。みんなが・・・」

確かに、学校でも人気のあるさくらが、こんな格好で校内をうろうろすれば、お客も集まるだろう。若干一名は自分のコレクションのためのような気もするが・・・。

少し落ち着きを取り戻し、今日はじめて小狼の全身に目をやったさくらは、洋服に付いた赤いものを見ると、大きな目を開いて小狼の腕をつかんだ。

「小狼くん、怪我してるよ!」
「いや、これは血のりだから」

よく見ると、黒いタキシード姿で、襟元にはネクタイの代わりに黒いスカーフをつけた小狼は、胸に赤い血のりを付け、唇もほのかに赤い。
ホラーハウスにつき物のドラキュラの扮装だ。
午前中、この役をするはずだった奴が、寝坊して代わりにやっているのだと小狼は照れくさそうに説明した。

「とにかく、もう少し待っててくれ。もうすぐ来るから。」
「李くん、いる?」

暗幕の向こうから少し高めの声が聞こえてきた。
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