Short Story 1

□おもいで
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「あのね、アルバム見る?」

そう促されて二階にあるさくらの部屋へと向かった。
帰り道で話題に上がった小さい頃の自分、言葉だけではその当時のことはおぼろげで、不確かだが。写真と言うものを手がかりに当時のことも鮮明に思い出せる。厚いアルバムを本棚の中から出すと、柔らかな絨毯の上に広げて見せた。
表紙を開くと現れたのは白い布に包まれた赤ちゃんで、それを抱いている女性はいつもリビングに飾られているのと同じような微笑を向けていた。

たくさんの写真。
どれも楽しいそうで、見ているだけで切り取られた風景の続きが想像できそうに思える。

「あ、これがね保育園の入園式で、これがね初めての先生で・・・。」

小さなさくらの笑顔は今とあまり変わりがないが、その顔は丸く幼さない感じ。

「これが七五三のときの写真。お父さんが着物作ってくれたんだ。」

桜色の着物。
小さなさくらは本当に嬉しそうで長い袋を両手に持って立っている。その横には今と同じような笑顔の少ない桃矢が立っている。
生まれたときから何枚もある写真、その写真を見せてくれるさくらは楽しそうで、見せてもらっていた小狼は一枚ごとにその時の思い出を話すさくらを優しい笑顔で見つめていた。
ただ、今まで見せてもらったどの写真にも桃矢が写っていて、小狼は嫉妬にも似た想いが胸の中に沸き起こった。

「いつも一緒だな」

小さな呟きは嬉しそうにアルバムをめくっていたさくらの耳にも入ってその手が止まる。

「え?」

言うつもりのなかった呟きがついでてしまった事に自分でも驚いて、小狼の顔は赤らんだ。

「いや、いつも兄貴といっしょなんだなと思って」
「うん、着物とか着るとね、すぐ転んじゃうからおにいちゃんがずっとそばにいてくれたんだ。」
「そうか」

ちょうど見ていた七五三の写真に写りこんだ桃矢を見てさくらはそう答えた。小狼は少しだけ自分の言ったことと的はずれのその答えに苦笑いを浮かべる。
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