Short Story 1

□笑顔の行方
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「さくらさん、お誕生日おめでとう」
「おめでとう。かいじゅう」
「さくら怪獣じゃないもん!!」

4月1日の朝のあいさつは特別。
早生まれのさくらがやっと友達に追いつく日。

その日の夜には三人だけの誕生日パーティが開かれる。今年からは約一匹、クロウカードの封印の獣でもあるケルベロスが加わるが・・・。

「今日はどうするんですか?」

テーブルの上の朝食を進めているとお父さんが聞いてきた。

「知世ちゃんの家に遊びに行くの。」
「そうですか。ではこれをもって行ってください。
本当は夜にでも渡そうと思ったのですが、早いほうがいいでしょう。
僕と桃矢君からの誕生日プレゼントです。」

テーブルの上に置かれたものを見てさくらは満面の笑みを浮かべた。ピンク色をした四角い物体は「携帯電話」

「お父さん、いいの?」
「はい、中学生になりますし。何より必要でしょう。」
「電話ばっかりするんじゃねーぞ」

もらったばかりの電話を抱え込むように抱きしめぎゅーとする。

「ありがとう!!大切にするよ」

朝食を急いで口にほおばると、もらったばかりの電話と説明書をもって二階に駆け上がった。

「ケロちゃん!見て!!」

電話をケルベロスのまえに差し出して誇らしげに見せた。

「なんや?携帯電話やないか。さくら、もっとるやろ。」
「あれは、知世ちゃんの!これは私のだよ。これでやっとメールとかできるよ。」

はにゃーん状態になりながらベットの上に倒れこみピンク色の電話をかざしてみる。

「電話番号登録しなきゃ。」

説明書とにらめっこしながら電話番号を入力していく。もう何回も掛けたので覚えてしまった小狼の携帯番号。以前にもらった手紙にはメールアドレスも書いてあった。
その二つを入力し次に友達の番号を追加していく。
初めての作業は思ったよりも時間がかかりなかなか前に進まない。
そばではケロちゃんが奇声とともにゲームに夢中になっていた。

「うー。使い方難しいよう・・・。」

携帯電話に夢中になりすぎて、ついつい時間が経っていたさくらは、知世との待ち合わせが間じかに迫っているのを思い出した。

「ほえー。もうこんな時間。行かなくっちゃ!
ケロちゃんお留守番お願いね。」

すばやく身支度を整えて、階段を駆け下り玄関から駆け出した。もちろん携帯電話はかばんに入れて。
(知世ちゃんに教えてもらおう)
そう思いながらうきうきした気分で知世の家に急いだ。

「ここをこうやると写真が取れるようですわね。」

知世と一緒に説明書を覗き込み、さくらは携帯電話の機能をいろいろと試してみていた。
 知世の家に着くと始まったのは「お誕生日記念撮影会」この日のために知世が丹精込めて作った、お誕生日バージョンの衣装を着て
ビデオと写真をひとしき撮り、満足した顔の知世に、さくらは今日もらったばかりの携帯電話をお披露目していた。

「それで、李君にはもうメールしましたの?」
「まだ。なんて送ろうか迷ってて・・・。」
「さくらちゃんの素直な気持ちをお書きになればよいのですわ」
「うーん」

液晶の画面をひとしきりにらんで、「よし!」と意気込んださくらは知世の部屋から見える桜の木を指差すと

「知世ちゃん。あの木の写真とっていい?」

窓からみえる大木の桜は日当たりがよいのだろうか、この時期には少し早い花を少しだけ咲かせていた。
さくらは庭に出てその木のそばに立つと、やっと咲いた桜の花の写真をアップで撮った。
撮った写真を保存してその場でメールを書き始める。

件名 さくらです
本文 小狼くん元気ですか?お父さんとお兄ちゃんが誕生日プレゼントに携帯電話を買ってくれました。
   番号は0908493****です。
春になりました。
   もうじき桜の花が満開になります。
添付ファイル
09/04/01_001.jpg

さっき撮った桜の写真を添えてメールを完成させたさくらは、息を止めながら初めての「送信」ボタンを押した。

20秒ほどして穴が開くほど見つめていた画面には「送信済み」の文字。

「知世ちゃん!送れたよ!!」

部屋の中で待っている知世のもとにかけ戻る。

「では、お茶にしましょう。今日は桜を使ったムースケーキですの」

ピンク色のムースの上に桜の花を飾で乗せ春らしい一品に仕上がっていた。紅茶はさくらんぼの甘いにおい。
ケーキを食べながらの話題の中心はこれから始まる新しい生活のこと。勉強や友達、胸をわくわくさせるようなことが待っている。

夕暮れが近づいて、さくらは帰り支度を始めていた。テーブルの上に置いた携帯電話をちらりと見たが、メールを受信した気配はない。
(忙しいんだよね。)
小さな吐息と一緒にカバンの中にしまおうとしたら、突然音が鳴り出した。

「ほ、ほえー」

突然のことにびっくりして携帯電話を絨毯の上に落としてしまった。すぐに鳴り止んだ電話を拾い上げて表示を見ると、メール受信のマーク。
急いで電話を開きメールが来たことを再確認する。

「知世ちゃん、メールきた!!」

覚えたての操作をして、どんなメールが来たのか確認する。
さくらの胸は自然と高鳴っていた。

件名 おめでとう
本文 誕生日おめでとう。
   さくらからのメールびっくりした。
   夜に電話するよ。
   こちらの桜は満開。
添付ファイル
09/04/01_004.jpg

何回も読み返し、さくらの顔は自然と笑っていた。短い文章が小狼らしくて嬉しくなったのだ。
添えられていた桜の木の写真は自宅に植えられたものなのか一本だけの木が、たくさんの花を咲かせていた。

手紙とは違う同じ時間を共有するような会話。小狼のそばにも桜の木はあって綺麗な花を咲かせていることがなんだか嬉しかった。

「今日電話くれるって」

心配そうに覗き込んでいる知世にそう伝えると、うきうきした気分で携帯電話をカバンに詰めた。

「そうですか、では李君に以前送ったプレゼントお気に召していただけたようですね。とお伝えください」
「プレゼントってなに贈ったの??」
「秘密ですわ。」

知世の楽しそうな笑顔はそれ以上の詮索を拒絶するようだった。

夜。
桜色をした電話は、自分と同じぐらいほほを染めた持ち主に、暖かな声を届けてくれた。








→あとがき
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