Short Story 1

□夏の始まり
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「みんな、よい夏休みを。」

担任の寺田先生がそう声をかけ、長い夏休みが始まりを告げた。最近転校してきたばかりの李小狼は思案顔で一枚の紙を眺めていた。
手にした紙の表にはかわいらしい笑顔の少年、裏には小さな枠のカレンダーが印刷されていた。
『ラジオ体操』とと書かれているそれは何の説明もなく夏休みのしおりとともに渡された。

「これはいったい何をするものなんだろう・・・」

表と裏を何度も見返しながら小さなため息をついた。
 香港から日本に来て習慣の違いと言うのはよくあった。みんなは当たり前と思っていることが、自分にとっては珍しかったりすることがある。

「しょうがない。聞いてみるか。」

帰り支度をしながら、夏休みの話しをしている生徒たちのなかから、細い目をした物知りの少年に声を掛ける。彼ならきっと教えてくれるだろうと言う確信の元に。

「山崎。これはいったい何に使うんだ。」

『ラジオ体操』のカードを山崎の目の前に差し出して説明をこう。
山崎の細い目が妖しく輝いた。

「これはね、ラジオ体操練習表といって、日本人が二十歳のときに受ける「日本人試験」に必須のラジオ体操を練習するための紙だよ。
毎朝ラジオから流れる曲にあわせて体操するのを大人の人に見てもらって、この枠に印をもらうんだ。
試験までに音楽を聴くだけで、音にあった体操をしなければいけないから、小さなころからお休みの時にはみんな練習しているんだ。
「日本人試験」に合格しないと、大人として認められないからみんな必死なんだよ。」
「へー」

- 日本人試験なんて大変だな、こんな小さなころから試験に向けて勉強するなんて、日本人はやっぱり勤勉だ・・・。

「李君も日本に住むならその試験受ける日がくるかもしれないね。
今から練習しとくといいよ。放送の時間はね・・・。」

ラジオ体操の説明を熱心に受けている小狼を遠くから見つめる級友たちは、本当のことをいつ教えるべきか悩んでいた。

でも、疑うことを知らない彼が本当のことを知るのは中学生になってからだとか・・・。


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