Short Story 1

□大切な友達
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たいせつなともだち 〜香港から日本の友へ

苺鈴ちゃんお元気にされていますか?
今日、無事に友枝小学校を卒業しました。
来月から中学生になります。
今日、さくらちゃんが李君の写真がないことを非常に残念がっておいででした。
李君が写真がお嫌いなのはお聞きしたのですが、苺鈴ちゃんもお持ちではないのでしょうか?

大道寺 知世

元気にしてるわよ!
写真ね・・・。そういえば私も持っていないかも。会えないから写真ぐらい持っておきたいわよね。
木之本さんは、ぽややんとしているから自分から写真がほしいなんていえないだろうし。
いいわ!写真探して送っておく。
しかし、相変わらず大道寺さんは木之本さんが一番なのね。

李 苺鈴


昨日送ってきていたメールにそう返信して苺鈴は椅子にもたれこみ天井を見上げた。
「写真かー。あえて撮ると変に思われるしなー。どうしよう。お姉さま方が持ってるかな」

去年の夏、日本から帰ってから小狼は変わった。
以前にもまして、武術や魔術の修行に励み、勉強も家庭教師の数を増やし、今まで嫌がっていた李家のあらゆる行事に顔を出すようになっていた。

小学生では考えられないようなスケジュールをこなす小狼と話す機会は極端に減り、
朝の登校は一緒に行っているが、それ以外に会うことはないに等しい。

時々苺鈴は、小狼が壊れてしまうのではないかと思うときがある。

すべてに余裕がないというのか、いつもより無口になり、そばにいると空気まで冷たく突き刺さりそうな、張り詰めた感覚を放っているときがある。

でも、数日すると普段通りの小狼に戻っている。
そんなときは決まって苺鈴はこう聞くことにしていた。

「木之本さんとお話したの?」

その一言でたぶん学校の誰も知らないような小狼になる。
耳まで赤くして「別に」とお決まりのセリフを言う小狼は私しか知らないだろう。と苺鈴は思っている。
(すべて彼女のためだものね)
今小狼ががんばっているのはすべて日本にいる彼女のため。

彼女の待つ日本に一日でも早く帰れるように・・・。

「小狼の居場所はここじゃないのね」

苺鈴はつぶやきながら家から見える香港の明かりに目をやった。


数日後、苺鈴は何とか手に入れた小狼の写真を傍に置き便箋に向かっていた。

木之本 桜 様

元気にしてる?
大道寺さんから小学校を卒業したと聞きました。おめでとう。
同封のものは卒業&入学記念のプレゼントよ。
ありがたく受け取りなさい。
来週はやっと同じ年になるのね。
それにふさわしいプレゼント贈るから待っていなさいね。

李 苺鈴

封筒に写真を入れようとして手を止める。写真の中の小狼は普段見せない笑顔で微笑んでいた。

いつもそばにいる苺鈴でもめったに見ることはない。

お目にかかったとしても一瞬で消えてしまう、そんな顔を写真で見れるなんて本当に奇跡のようだと苺鈴は思う。

この写真を撮った友人の話によると、撮ったのは偶然で、桜の木を写真に収めようとファインダーをのぞいていたら、その近くにいる小狼に目が行ったらしい。
その姿に思わずシャッターを切っていたとか。
(小狼 怒るかなー)

知世からのメールの後、小狼の姉たちに写真のことを聞いたが、昔のものはあっても、最近のは小狼のガードが固く撮れていないらしかった。

そこで、学校の新聞部を尋ねてみた。新聞部では部費の足しにするために、学校の人気のある人物の写真をこっそりと販売していたから。

「小狼の写真ってある?」

新聞部の部室を勢いよく開けたとき、部室の真ん中には人だかりができていた。
その中心にいる顔見知りの子に声をかけると、ものすごくびっくりした顔で

「苺鈴ちゃん。何で知ってるの?まだ、誰にも言ってないのに」

最初何のことを言っているのかわからなかったが、実は偶然撮れたた小狼の写真を部員たちで売る算段をしていたときだったらしい。

「いい写真でしょ」

撮った子は誇らしげに見せてくれた。

紺色のズボンに薄いオレンジ色のカッターシャツ。胸元には校章のはいった濃紺のネクタイ。

苺鈴が毎日見る学校の制服を着た小狼が一人たたずみ、そばにある木を見上げるように微笑んでいた。 

「これ!!ネガごと頂戴!!!」
「えーーーー」

部員全員のブーイングに後ずさりした。

「これ売れば部費がどれだけ助かるか・・・。」

小狼の写真は珍しく、またこんな微笑んだ写真は皆無で、最近増えた小狼のファンにとってはのどから手が出るぐらいほしいものだ。
と部員たちは口々にこの写真の貴重さと、もたらすお金の重要さを苺鈴に聞かせた。

「わかった!じゃあこういうのはどう?
とっておきのスクープと交換。」
「なに?」

さすが新聞部、スクープと言う言葉に弱いらしい。部員全員の目が苺鈴に注がれる。

「李小狼の彼女の写真・・・。」
「買った!!!」

ほぼ全員が同時に叫び互いにどんな記事にするか話を始めた。
学校でも小狼の彼女はなぞで、告白をしては断られる女の子が増えていくのに、その想い人がそんな子なのか誰もしらない。

唯一その彼女を知っているらしい苺鈴は、何度となく新聞部員たちから彼女の正体を聞かれていた。

そのたびに『とってもいい子』とだけ答えて煙に巻いていたのだが、この写真を手に入れるためにはしょうがない。

「明日持ってくるから、写真とネガ頂戴」
「絶対だからね」

写真とネガを渡しながら何度も念を押されて、部屋を後にした。

そんな経緯で手に入れたものだから本当は送るのをやめようかとも思った。
でも、その写真以上に小狼の優しい顔を写した物はないようにも思えた。
(木之本さんを見る顔ってこんな感じなのよね。きっと)
同じ名前の木を見て、彼女のことを想ったのだろう。

「なるようになる」

便箋を折りたたみ、写真と一緒に封をする。
明日には「木之本桜」の写真が載った学校新聞が生徒たちの手に渡ることになっている。

運動会のリレーでゴールテープを切った瞬間のはじけるような笑顔の写真の。




→あとがき
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