Short Story 1
□声を聞かせて
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その夜はなんだか眠れなかった。
「お話したいな・・・」
深夜といってもいい時間、もう電話はできない。
机の上の携帯電話が薄暗い部屋のライトに照らされている。
ベットから抜け出し机の引き出しを開けた。
春に苺鈴ちゃんからもらった写真をそっと抱きしめる。
大好き
優しく笑うその人のことを思うとドキドキする。そして気持ちが安らぐ。
(大丈夫。きっと大丈夫)
きっと小狼くんも同じ気持ちでいてくれるはず。
不安な気持ちを打ち消すようにそう心で唱える
夢の中で会えたらいい
そう思って、写真を枕の下に入れた。
「うん、これできっと言い夢見れるよ
おやすみ 小狼くん」
自分で言ってちょっとだけ照れた。
夢の中で会えたらいいーーー。
そう思えば本当に会えるのかな。
今、目の前にいるのは誰?
暗い室内、机に向かって何かを見ている人。後姿を見ただけでわかる。
「しゃ、小狼くん?」
うつむいていた顔をあげ、声を探すように振り返った。
その瞳が一種大きく開かれた。
「さくら?」
ガタンと椅子から立ち上がって近づいてくる。暗い室内。机の上の明かりだけが頼り。
そばに立つとはっきりする彼の顔。
少し顔を上向きにしないと見ることができない。以前はおんなじぐらいだったのに、こんなに大きくなってるの?
「なんで」
話したいことがたくさんありすぎて、声が出ない・・・。
薄暗い光に照らされる顔がなんだか青ざめて見える。
「小狼くん、大丈夫?」
その頬に手を差し伸べる。触れた頬から暖かさが伝わってくる。
「夢、だよね」
「たぶん」
その暖かさに驚いて、反射的に出た言葉。小狼くんも何が起こっているのか戸惑っている感じ。
頬に当てた手にそっと小狼くんの手が重なった。私よりも大きな手。
あのころいつも守っていてくれた手はこんなに大きかった?
いつの間にこんなに変わってしまったんだろう。
心も変わってしまった?
触れた手が熱くなってきて、恥ずかしさが大きくなってきた。
恥ずかしさから逃れるように、頬に当てた手を引っ込めた。
「なに、してたの?」
赤くなった頬を気づかれないように小狼くんの背中にある机を覗き込む。
「あっ、まて」
すごくあわてた声。久しぶりに聞いた。電話口ではいつも落ち着いているのに。
机の上にあったのは写真。
(誰の?)
見慣れた友枝中学校の制服。
それを着て笑っているのは「私」
でも、こんな写真私見たことない。いつも小狼くんに送るのは、みんなで撮ったもの、一人のは恥ずかしくって送れないでいた。
「だっ、大道寺がくれたんだ。」
目の前に立つ小狼くんは、すごくすごく真っ赤な顔。
今にもここから逃げ出しそう。
「私も持ってる。小狼くんの写真。苺鈴ちゃんがくれたの・・・・。」
離れていても想っているよ
君の事を
あなたのことを
いつも想っている
だから、きっと ぜったい
『大丈夫』
小狼くんの肩に頭をのせ、あふれてくる涙を我慢する。
泣かないって決めてたのに。お別れしたあの日から、寂しくても泣かないって。
でも、今日の涙は嬉し涙。あなたも同じように想ってくれていることがわかったから。
「まだ、しばらく日本に帰れないけど、絶対帰るから。」
「うん、待ってる」
肩に置かれた手から伝わってくる強い思い。
だから『大丈夫』
「さくら!!!」
「ほえーーーー」
反射的に起き上がった先にいたのは、ケロちゃん。
「けっ、ケロちゃん。」
「さくら何回呼んだら目が覚めるんや。遅刻するで。」
「ほえーーーー」
ケロちゃんが指した目覚ましの時間は7時半。
いつもなら家を出る時間だ。
転げ落ちるようにベットを出て、急いで着替えをする。
カバンを手に取った時、携帯電話にメールが来ているのに気づいた。
ー 昨日、来てくれてありがとう
会えて嬉しかった。
小狼くんからのメール。
夢だけど、夢じゃない。
会ったのは本物の小狼くんだったんだね。
二人で想うの『会いたいって』
祈るように。
そうすればきっと会えるから。
→あとがき