Short Story 1

□微熱
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「さくら、着替えできるか」
「うん」

一瞬ここがどこだかわからなくなった。
自分の部屋なのに。
いつも見るぬいぐるみたち。ゲームに夢中のケロちゃんがいない。
机の上には書きなぐりの手紙

『ゆえんとこいく』
-月さんのところに行ったのか。

頭の中がぼんやりとして着替えの手が止まる。
どうやって帰ってきたのか
小狼くんに抱えられるように歩いたと思うけどそれが夢の中の出来事に思える。

「さくら、着替えたか?もう一回熱測ろう」

体温計を持った小狼くんが部屋に入ってきた。
制服のネクタイをはずして、薄水色のシャツだけ。

「小狼くん」
「大丈夫か?」

手のひらを額に当てて、心配顔の小狼くんが目の前に。
『水着姿、かっこいい』
頭の中に顔も知らない女の子たちが言った言葉がよみがえってきた。

「ずるい。私見てない」
「なにが」
「小狼くんの水着姿、あの子達は見てるのに。」

私の知らない小狼くんを知ってるなんてずるい。
涙が頬を伝う。

「いやだ」
「さくら??」

制服のボタンをはずす。きっとこれがなくなれば見れる。
彼女たちが言っていた。整った体

「おっ、おい、なにやって・・・」
「だって、私のだもん。 ほかの人が見るなんてやだ。」

ボタンをはずし終わって、シャツを脱がす。

「わたしのだもん」

均整の取れた体も、大きな胸も、全部全部私のもの。

「小狼くんの・・・お胸・・すごく・・早い」

胸に耳を当てると『とくとく とくとく』音がする。
とっても気持ちいい。
その音を聞いてるとなんだか落ち着いてきた
なんだかとっても安心できる。


「おい、さくら?」

小狼は自分の胸に耳を当てながら規則正しい寝息を立てている彼女の顔を覗き込んだ

その顔はとても安らかで・・・。

自分を押し倒したかと思えば
いきなり制服を脱がし抱きついてきた。
普段では絶対にありえない彼女

「熱のせいだな」

まだ熱い自分の体と顔
そっと彼女から体をはずし、眠ってしまったさくらをベットに運ぶ。

「いったい何を聞いたんだか。」

汗で頬に張り付いた髪をそっと取ってあげると安心したような顔をした。
布団をかけて、シャツのボタンを直す。

「いつか、いやでも見るようになるんだからあんな事言わなくてもいいのに。」

-私のだもん。
   ほかの人が見るなんてやだ。

「さて、おかゆでもつくろう」

いつまでたってもなくならない温かさ。

彼女のぬくもりが胸に『微熱』のような跡を残してる。


→あとがき
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