Short Story 1
□おまじない
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− あっ、ここ小狼くんの部屋だ。
めったに入ることのない小狼の部屋は本であふれている。
棚の中には普通では読めない魔術書や英語、
難しい題名の本が並ぶ。
少し大き目のベットと机。備え付けのクローゼットはきちんと閉められ、几帳面に整理された部屋。
机の上のライトがオレンジ色の光を放ち、読みかけだろう本がその下には広げられていた。
パタン
その部屋のドアが開けられ、頭にタオルを乗せた小狼が入ってきた。
ぬれた髪を拭く手を止め、さくらに目をやる。
「小狼くん。お風呂入ってた?」
ぬれた前髪はいつもより少しうねりが強く、いつも見る小狼と少しだけ違って見える。
その前髪に触れられる距離に近づくと、そっと触れてみた。冷たい感触が指先に伝わる。
「本当みたい」
その感触に驚いて、子供みたいに声を出す。
「さくら」
近づいた距離をちじめるように、強く抱きしめられ、さくらは息を呑んだ。
すぐそばにある小狼の体からは、いつもより強い香りがして、さくらの鼓動を早めさせる。
「しゃ・・」
名前を呼ぼうと開かれた薄いピンク色の唇は、小狼の熱い吐息でふさがれた。
「んっ」
角度を変え繰り返される口付け。
ちいさな隙間から入り込んだ小狼の舌が、いまだそのことにおびえ気味なさくらを執拗に攻めたてる。
呼吸をすることも忘れるかのようなキス
さくらの思考を奪い、二人の吐息がお互いを求めるように重なってゆく。
背中に感じた柔らかな感触で、さくらはベットに押し倒されたことに気づいた。
自分を見下ろす小狼の視線は熱く、見ているだけで飲み込まれそうになる。
その視線から逃れるように横を向いたさくらの耳に吐息に似たささやきが落とされた。
「好きだ」
その一言は胸の奥を強く貫いて、嬉しさがこみ上げてくる。
首筋に落とされた暖かなぬくもりは徐々に下に降りてきて、小狼のしなやかな指がボタンをはずそうとする。