Short Story 1
□それはね
2ページ/4ページ
「大変だよな。その年で一人暮らしなんて」
親元を離れ一人で暮らしていると言うと大概の奴はいう。
「料理、洗濯、掃除。俺には無理だ」
日常に必要なことをするのは苦痛ではない。
数年前に経験済みのそれを行うのは、忘れていた日々を思い出すようでかえって楽しい。
洗濯は洗濯機がしてくれるものを干してしまうだけだし、掃除については日々行えば困ることはない。
料理にいたっては、科学の実験に近いものだと思う。
レシピに書いてあるものを計量し、加え、一つのものを作る。楽しい作業だ。
それに作ったものを食べてくれる人がいるというのも、料理を好きなひとつかもしれない。
「小狼くん。これすっごくおいしいよ!」
テーブルの上に並んだ料理。その一つ一つをほおばりながら幸せそうな彼女を見ると、今度は何を作ろうかと考える。
自分の作ったものが彼女を幸せな気持ちにさせれると思うと、おのずと力が入る。
一人で食事をするときも、初めて作った料理の味見をするようなものに思える。
おいしければ彼女のために作ろう。
そう思いながら一人の食事をしてるなんて彼女には絶対に言えないな。
それは俺だけの秘密。