Short Story 1

□朝
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−小狼くんまだいる。

神社全体を包むような小狼の結界。さくらにはそれは柔らかな白い光に見えた。
その結界の中に入ろうと手をかけたが、強く押し戻されてしまった。
自分の手にもう一度意識を集中してその白い光の下に進む。今度は緩やかにつつまれるようにその結界の中に入り込めた。
外の風景とは変わらないように思えても、自分の周りに小狼の気配があるような、そんな感じをさくらは受けていた。

「あ、いた」

月峰神社の広い境内の中で、宝剣を片手に剣舞の練習をしている。
マオカラーの黒い服に身を包み真剣な表情で舞う姿にさくらはしばし見とれていた。
宝剣を手にする姿はすごく久しぶりに見る。

何年か前はいつも見ていたのに、そのときはいつも隣にいた。
でも、こんな風にゆっくりとその姿に見入ることはできなかったけれど
クロウカードを追うことに一生懸命になりすぎて、その姿を見ていなかったことが今となっては残念に思われる。

−そうだ

カバンから一枚のカードを取り出しその封印を解除する。

「かの者と戦え『ファイト』」

カードから実体化した彼女は小狼の前に降り立つと、その手から剣を出し正面に構えた。
小狼は、突然自分の前に現れたカードに戸惑うが、すぐにさくらの方を見て少し離れた場所を指差すと向き直った。
小狼の指したほうを見るとデイバックとコートが置かれていた。
−あそこで見てろてことかな?
さくらはその荷物のあるほうに駆け足でゆくと大きな木にもたれかかるようにして小狼のほうに目を向けた。
それを合図のように二人の戦いが始まった。

おたがいの剣を交わしては遠のき、その剣をかわす様に舞う。
剣舞の名にふさわしい戦いにさくらはその寒さも忘れ見入っていた。

次第に回りは明るくなり始め、差し込んできた朝日が二人に降り注いでゆく
その光に目を奪われたカードの一瞬の隙を突いて、小狼がその胸元深く飛び込み、のど元に剣先を構える。
身動きの取れなくなた彼女はカードの姿に戻りさくらの手に舞い戻ってきた。
−ご苦労様
カードを見つめねぎらいの言葉をかけると、小狼が額に汗を光らせながらやってきた。

「不意打ち」

短い言葉をさくらにかけながらも、顔には微笑を浮かべていた。
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