Short Story 1

□春
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「小狼。元気そうね。香港に帰ってもちっとも会いにきてくれないだもの。」
「しょうがないだろ。忙しいんだから」
「元婚約者に会ったって木之本さんは怒らないと思うわよ」
「別にそんなことが理由じゃないよ」
「知ってるわよ、冗談が通じないんだから」
「苺鈴が言うと冗談に聞こえない」

小狼はいつものようにノートパソコンを開きながら、その手を止めることなく文字を打ち込む。その小狼の肩に手をおきながら画面を覗き込む。

「なあに、週末遊べないの?」

パソコンに映し出されたメールを一読すると、すこし寂しそうにつぶやいた。
その内容は土曜の午後にある人物に会うように指示が書いてあった。

「大変ね、李家の仕事って。」
「それが、日本にいるための条件だし」
「ふーん」

少し下にある小狼の顔を覗き込みながら、まじめな顔をするとおもむろに質問する

「で、木之本さんとすることしたの?」
「な、なんだよすることって!!」

突然の質問にあせり、その顔を真っ赤にしながら、斜め上にある苺鈴の顔をみる。

「その様子じゃ、まだみたいね。」
「何を根拠に」
「もう、こっちに来て半年以上たつのに、まだキスだけでモタモタしているとは、やっぱり二人はぽよよんさんだわ」
「苺鈴!!」

大きな声を出してすごんでみるが、小さな時から親しくしているいとこに効果があるわけもなく、苺鈴は腕組みをしながらなにやら考え込んでいた。何か悪巧みでもしていないかと思うが、ふとさっきの言葉を思い出し尋ねてみる。

「どうしてキスしてるって知っているんだ?」
「やだ、大道寺さんが送ってくれたのよ。ベストショットですって。」

携帯電話をポケットから取り出し開くと、そのまま小狼のほうを向ける。

「なっ /////」
「いい写真でしょ。」

逆光で影だけしか映っていないが、二人の距離は近く
いったいいいつ撮ったのか、油断も隙もないとはこのことだ・・・。

「その写真を待ち受けにするなよ」
「だって、いい写真じゃない。」
「他のにしてくれ。」
「じゃあね、これとか」

次々出てくる自分とさくらの写真にめまいを覚える。大道寺と苺鈴のメールとはいったいどんなものなのか。二人のメールを覗いてみたい気もするが、いやそれよりも、と思い直し苺鈴から携帯電話を奪い取ると、その機械の中の画像を消去するべく操作をする。

「ちょっと小狼返してよ。」
「苺鈴が持っていてもしょうがない写真だろ?」
「そんなことないわよ、二人が幸せかどうかのバロメーターなんだから。」

あっという間に消去されてしまった写真の数々にがっくりと肩を落としている風に見える苺鈴だった。その姿を見てやりすぎてしまっただろうかと、少しの後悔が小狼の頭の中をよぎった。

「いいもん。また大道寺さんにもらうから」
「やめてくれ」
「そうね、買い物に付き合ってくれたらやめようかな」

小狼の手から自分の携帯を取り戻し、さり気なく腕を組み体を密着させる。

「で、こんなことしてるの?」
「するわけないだろ」
「苺鈴ちゃん!お待たせ!!」

思いっきりよくドアを開けて入って来たさくらはそのままの姿勢で固まってしまった。
すばやくはなれたものの、小狼の顔はほのかに赤い。

「木之本さん、遅いわよ」
「あ、ごめんね、先生の話が長くって」
「そうなの?じゃあ仕方ないわね。小狼、ちゃんと明日買い物付き合ってよ」
「ああ」

さりげなく言いながらパソコンを片付け、帰り支度をする。さくらの表情はさえない。

「どうした?」

その様子が気になりさりげなく声をかける。たまに見る少し不安げな表情。

「別に・・・。や、あの」
「お待たせいたしましたわ。」

少し考えて何かを言おうとしていたさくらだったが知世にさえぎられ、その後にどんな言葉が出てくるのか分からないままたっだ。
久しぶりの4人そろっての帰り道だったがさくらの笑顔には少しだけの曇りがあった。
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