Short Story 1
□花咲く頃
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「だめだよ、山崎君。小狼くん今日は私と帰るんだから。」
山崎の背後からよく知った甘めの声がして、ちょっと驚いた。今日は大道寺と帰る予定になっていたはずの彼女の姿がそこにあった。
「だから、その話はまた来週」
山崎の背後から俺の横に並ぶと、珍しくその細い腕を絡ませてきた。
「木之本さん相手だと勝ち目ないね。じゃあ、李くんまた来週お願いするよ」
「ああ」
今日何度目かのため息をつくと、なぜか心配そうに覗き込んでいるさくらと目が合った。
「小狼くん体調よくないでしょ。だめだよ、学校来たりしたら」
ちょっと小声でそういうと、腕を絡ませたまま歩みだした。
「何でわかった」
「お昼廊下で見たときに」
いつもなら少しだけ前を歩く俺と同じように、今日はさくらが少しだけ前を歩いている。
「誰も気づいてなかったと思うけど」
「わかるよ、小狼くんのことだもん」
真正面に立つと、強い瞳が射抜くように見つめる。自分のことをわかってくれる存在か嬉しくて、その細い肩に寄りかかってしまいそうな弱い自分を見抜かれそうでそっと視線をはずした。
「ありがとう ///」
「うん」
嬉しそうな返事と、同時にまた前へと歩き出す。
「帰ろう」
「大道寺と帰るんだったろ?俺は大丈夫だから」
「大丈夫じゃないもん。それに知世ちゃんにはもう帰ってもらったし・・・。」
−なんでさくらはカバンを持っていないんだろう。
そんな言葉が頭の中をよぎったが、ぼんやりとした頭では考えはまとまらない。
その左腕に絡まってくいるさくらの手のぬくもりが心地よくて、そのまま家路についた。