短編
□最期の幸せ
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男は地面に倒れた。
地面には味方も敵もたくさん、死体となって転がっていた。
「がはっ…」
男は血を吐いた。血は腹からも流れている。
死ぬんだろうな…
下っ端の兵士の死に際なんてこんなものだろ
あぁ、でも、
最期にお前に一目会いたい
お前に触れたい
…はっ
無理な話だけどな
俺は戦場に、お前は家にいる
くだらないことを考えるのは、やめだ
もう…
男が目を閉じかけた時、男の耳に女の声が届いた。
「 」
それは、男の名前だった。
男は顔をあげ、声の主を探す。辺りを見回すと、少し離れた所に女がいた。
男は目を見開いた。
その女は男の妻だった。
男は立つことができないから、はいつくばって女の所に行く。
女を見て、男は直感で「こいつは幻だ」と思った。
しかし、思わず聞いてみた。
「ど…して、ここに、いる…ん、だ…」
女は微笑んで、また男の名前を呼ぶ。
男も女の名前を呼んでみた。
女は微笑んで、俺を抱きしめた。
これが、幻?
ちゃんとお前のぬくもりもあるのに…
男も動かない腕を必死に動かし、女を抱きしめた。
幻にぬくもりを感じるということは、俺はもう死んでいるということなのだろうか
…あぁ、どっちでもいいよ
俺にとって大切なのは、俺がお前の腕の中にいること―――
お前の腕の中で死ねた俺は果報者だ
His last moment is happiness