変態さんと私
□ある日のラウンジ
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いつもと変わらない午後のラウンジ。
それは、突然、連勝さんが「目を細めることなく完全な白目になれる」と白鬼院さんに自慢したことから始まった。
連勝さんと白鬼院さんの隣のテーブルに座っていた私と蜻蛉。
連勝さんの言葉に蜻蛉は立ち上がる。
「私は一目見ただけでそいつがSかMか見分けることができるぞ!」
「それはもういい」
「他人に迷惑をかける特技だから」
「じゃあ俺は白目になりながら拳を口の中に入れる事ができるぜ!」
「張り合うな」
「凄い……ですね…………?」
連勝さんを疑問系で褒めると「君も褒めるな」と白鬼院さんにツッコまれた。
「白鬼院さんの特技は的確なツッコミですね!」
「なら、君の特技はそのスルースキルだな」
「えー……なんか、ちょっと微妙です」
「僕も嬉しくないがな」
なんだか可笑しくて小さく笑うと白鬼院さんも小さく笑った。
「君は、あの変態といるのに普通なんだな」
私をじっと見つめる白鬼院さんがそんなことを呟く。
「えっと……キャラが薄いってことですか?」
「あ、え、……ち、違う! そうではなくてだな! そのっ」
「……?」
「う……、や、やっぱり何でもない!」
「え、気になります……!」
「し、知らん!」
今度こそ完全に顔を背けてしまった白鬼院さんはちょっぴり頬を赤くしている。
何を伝えたかったのかは私には分からないけれど、伝えたいことを伝えられないその姿に、なんとなく自分の昔が重なった。
「白鬼院さん」
「な、なんだ」
名前を呼んだら振り向いてくれる白鬼院さんは、素直じゃないだけで優しくて良い人。
だから、少しでも力になりたくて、ポケットの飴をひとつ彼女の手のひらに乗せた。
「これは……?」
「飴です。苺味の。お嫌いですか?」
「いや」
「よかった」
白鬼院さんが不思議そうに手の中の飴を転がす。
「それは素直になれる飴です」
「素直になれる飴?」
「はい。自分の思いを素直に受け止められる飴。それを言葉に出来なくても、もやもやした気持ちがなくなって、自分に素直になれるんです」
暫くその飴を眺めていた白鬼院さんは、我に返ったように俯きがちに、でもはっきりと「ありがとう」と言った。
「どういたしまして」
頬が緩む。
嬉しいようなむず痒いような気持ち。
苺の甘い香りがふわりと鼻をくすぐった。
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