12/31の日記

13:46
薄桜鬼妄想
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「たのもー!」

そいつがやってきたのは、あまりにも天気が良くて、あまりにも強い風の吹く日。
高い位置で結ばれた髪が尻尾のように揺れて、少し猫を思わせるような、まあるい瞳はただきらきらと輝いていた。
まるで汚れなど何も知らないかのように。











「たのもー!」

そう言って盛大に扉を蹴破ってみたものの、誰も俺を見てくれない。
忙しそうに右へ左へ。
……何か寂しい。イタイ。

「気づかぬならば……気づくまでやるまで!」

浮かびかけた涙を拭って、もう一度扉の外にスタンバイ。
少し建て付けの悪くなった、ガタガタ鳴く戸を無理にはめ直して、地面を蹴った。

「たのもー……ふべら!!!!」

蹴破ろうとしていた戸が突然開き、顔面に戸が直撃。
思わず意味不明な言葉を叫んじゃったけど、これまじ痛い! やべーって! 絶対、顔真っ二つだって!
顔を押さえてのたうち回っていると、頭上から何やら笑いを含んだ声が降ってくる。

「大丈夫? って、大丈夫じゃないよね」
「分かってるんなら……助けれ」
「何、助けれって。ぶふっ、君ってやっぱり頭悪いんだ」

ついに我慢出来なくなったのか、目の前の男は腹を抱えて笑い出す。

「くそぅ! のた打ち回ってるやつ見て笑ってるとは、恐ろしい奴め!! 滅べ色男!」
「褒めてるの? 貶してるの? どっちかにしてくれる?」
「五月蝿い! 褒めてんだよ! この悪魔!!」
「さっきの衝撃で頭のネジが抜けちゃったみたいだね」

怖いくらいに綺麗に笑った色男は俺の襟首を掴むと、「とりあえず鬼に会いに行こうか?」とガタガタ鳴いてる戸を開けて、俺を引きずりながら歩き出した。
俺は一生この悪魔の緑の瞳を忘れない。そう思うほどに恐ろしい体験をこのあとするのであった。



色男の皮を被った悪魔に連れてこられたのは、一室の部屋。
そして、俺は今、命の危機に瀕している。
俺ってばさー、五感が鋭くって、所謂第六感ってやつも鋭いんだわー。だから、イヤでも分かっちゃうんだよね! 目の前に鬼が居るって。

難しい険しい顔をした髪の長い男(こちらも色男)が俺を品定めするように睨む。
その視線を感じるだけで、ヘタレな俺は身が縮こまって「ひっ」と視線を逸らしてしまう。まさに蛇に睨まれた蛙!
え、なに、つーことは俺食われんの? 蛇が蛙を睨むってことは食おうとしてんだよな? もしかしなくても丸飲みだよな? え、え、俺も丸飲み? まじで?
全身からさっと血の気が引く。や、ヤバい……まだ死にたくない……つか、食われたくない……! 相手は鬼。拳では適わないだろうけど、頭良さそうだし、話せば分かってくれるかも……! そ、そうだよな! 頑張れ俺! 明日の朝日を見るために!
意を決して俺は目の前の鬼を見る。
彼は何かを言おうとしている様子だったけど、それを無視して俺は出せる限りで叫んだ。

「お、おおお俺は不味いです!!!!」
「………………は?」

目の前の鬼から、言葉にもならない言葉が零れ落ちる。
俺はまたしても気にせずに言葉を続けた。

「く、食ったって何の栄養にもなりません!!!! 背も小さいし、頭も悪いし! だ、だからっ! 見逃して下さい!! 俺もここが鬼の住居だなんて知らなかったんです!!!! 間違えたんです!!」
「……ぶっ、あはははははっ!」

俺が一息に言い終えた途端、事の成り行きを見守っていた悪魔が腹を抱えて笑い出した。
転げ回りながら笑う悪魔に、目の前の鬼の眉がピクリと動く。

「うるっせぇ!!!! 総司!!」

耳がキーンとする怒鳴り声に、びくりと肩を震わせてしまった俺とは対照的に悪魔は尚も転げ回る。

「だ、だって、……くくっ…………土方さ、ん、っぶふ」
「……総司!!!!」

鬼が悪魔を睨む。それはもうこの世の怖いものを全て詰め込んだような震え上がる眼力で。
漸く満足したのか、笑いを収めた悪魔は涙を拭いながら、俺を見た。

「君、面白いね。気に入ったよ」
「……ありがとうございます?」
「ふふ。僕は沖田総司。君は?」
「あ、空と申します」
「空……?」

今まで難しい顔をして、こめかみを押さえていた鬼が俺が名乗ると弾かれたように顔を上げた。そして、驚いたような顔で俺の顔をじっと見てくる。

「あの……?」
「あんた、もしかして……」

そう呟くと鬼は俺に背を向け、山積みになった紙をがさがさと漁る。そして、一枚の紙を引き抜くと、さっと目を走らせて、その紙を片手に俺に向き直った。

「あんたか。松本先生の言ってた腕利きの医者ってのは」
「腕利きかどうかは分かりかねますが、松本先生が紹介した医者は多分俺です」

考えるような動作をした鬼は、「あれはあんのか?」と俺に片手を出した。
その手に懐から出した数枚の書状を乗せる。

「これですか?」

俺の差し出した書状を断った後、開いた鬼は素早く書面に目を走らせて、一つ頷いた。

「どうやら、あんたで間違いないらしい」
「それはどうも」

鬼から返された書状を懐に戻しながら、曖昧に笑う。
ここが俺の次の職場で間違いないようだ。よかった、危うく職を失うところだった。

「土方さん、どういうことですか?」

静かに俺たちのやり取りを見ていた沖田さんが不思議そうに鬼を見る。ちらりと好奇の目を俺に向けた沖田さんは、唇の端をペロリと舐めて笑った。

「新選組専属の住み込みの医師が必要だと松本先生が上に掛け合ってくれたみたいでな」
「それがこの子なんですか?」
「ああ。今、書状を確認したが、確かにこいつだ」
「ふぅん。そんな凄い先生には見えませんけど」

んだとコラ。
ズタズタに解剖して、新生・解体新書でも書くぞコラァ。
馬鹿にしたような目で見てくる沖田さんを睨み返すと、余裕そうに鼻で笑われた。

「全然、怖くないよ」
「医者なので。他人を脅かすのは専門外ですから。貴方と違って」
「ふふ、やっぱり君、面白いね。これから楽しくなりそう」
「それはどうも」

ニコリとなんだか裏がありそうな笑みを浮かべた沖田さん。

この人とはなるべく関わりたくない……。やめとけと俺の本能が告げている。

まだニコニコ笑いながら、俺を舐めるように見ている沖田さんを見て小さく溜め息を吐いた鬼は「総司」と沖田さんを咎める。
大して悪びれていない様子で沖田さんは「ごめんね」と俺を覗き込んだ。
近づいた沖田さんの顔を押し返しながら、鬼を見るとまたこめかみを押さえている。もう一度、溜め息を吐いた後、鬼は俺を見据えた。

「遅れてすまないが、新選組副長の土方歳三だ」

俺の目をしっかりと見つめる鬼――土方さんに“凛とした人”そんな言葉が浮かぶ。
俺も沖田さんの頭を離して、姿勢を正すと、しっかりと彼の目を見据えた。

「改めまして、今日からこちらで医師としてお世話になります、空です。宜しくお願いします」
「ああ、こちらこそ頼む」

じっと俺を見つめていた紫の瞳が、ふいに揺れる。
先ほどまで凛としていた土方さんは苦笑いのような薄い笑みを浮かべてため息をついた。

「話したいことは沢山あるんだがなぁ、今は少々立て込んでいてな。悪いが、部屋で待っててもらえるか?」
「部屋ですか?」
「ああ。何かと入り用かと思って、一人部屋を用意させた。総司、案内してやってくれ」

ちらりと沖田さんを見ると輝く笑顔で「ついておいで」と言われ、なぜか悪寒がした。




ここまで書いて力尽きた。
薄桜鬼、医者夢。男主もしくは男装主。
男主なら沖田・斎藤友情の山崎落ち。男装主なら斎藤パパン山崎ママンの沖田落ち。
斎藤父親ポジで山崎母親ポジとかww
男主にしろ男装主にしろ、斎藤さんが男前になりそう。

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