リクエスト

□気付いてしまえば
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不動峰vs青学の地区大会決勝から数日後

越前君の左目の傷、心配はないと青学の顧問のおばさんからは言われたけど俺の心にも少しばかりの罪悪感は残っていたらしく

「「「お疲れっした!!!」」」

テニスコートの方から馬鹿デカい声が聞こえてくる

橘さんにきちんと謝った方がいいとも勧められたからいつもより少しだけ早く練習を切り上げて、俺は今青学の校門前に立っている

…だがどうにも目立つ

人がわざわざ謝りに来てんだから早く来てよね…

と、心の中でボヤく

まぁ事前に連絡も何もしてなかったから責めるような理由はないんだけど

「にゃ!?もしかして不動峰の伊武っち!?」

「…あ」

ボーっと空を眺めていたら、猫の鳴き声みたいなのが聞こえて急に隣が騒がしくなった

「菊丸さん…」

「久しぶりだにゃー♪何何?なんか用?」

「越ぜ「えーじせーんぱーい!!」…」

さっさと用件を伝えて帰ろうと思っていたのに何かまたうるさいのが増えてしまった

ザーっと大きな音を立てて俺のすぐ横に自転車が止まる

「は!?伊武!?」

「あ、越前君」

「…どーも」

桃城君が乗っていた自転車の後ろ、荷台の部分に立っていた小柄な少年を見付けて声をかける

左目の瞼にはまだガーゼが付けられていた

「おいっ!!俺には何もなしかっつの!」

「え?…あぁ、桃城君…
そりゃ気付いてたよ、今挨拶しようと思ったトコなのに…そう言われると言う気失せるよなぁ…」

「うっιわ、悪かったよ!分かったからボヤくな!」

そっちから話しかけて来ておいて何だ、と思ったが
これ以上時間を無駄にするのも勿体ないと思い直して口を閉じた

「んで?今日はどーしたの??」

桃城君を諌めてから菊丸さんがもう1度聞いてきた

こうして話を脱線しないようにする所を見てやっぱり一応3年生だったんだ、と思う

「越前君の、左目。
やっぱ俺も悪かったと思ってちゃんと謝りに「んな気にすんなよ!もう大丈夫だろうしな!」…」

「桃先輩、ちょっと黙って欲しいっス」

「な、なんだと!?」

人の話を最後まで聞かないとは彼のような人の事を言うのだろう
もう2度も話を遮られてしまった

いつもならここで言い返す所だけどこれ以上状況をめんどくさくしたくはない

「おチビに用事か〜。なら俺達は先帰るにゃ!
じゃーなーおチビー♪ ほら、桃行くぞ!」

「うっわ!?英二先輩、引っ張んないで下さいよ!ι」

またしても菊丸さんに助けられ彼は桃城君を引っ張り自転車ごと拉致していった

その結果、校門前には俺と越前君が取り残される

「あ…あーあ、行っちゃった
今日桃先輩にハンバーガーおごってもらおうと思ってたのに…」

「…俺がおごろうか?」

「…はい?」

俺が発した言葉に越前君が心底驚いたという顔をしていた

否、自分でも驚いている

何故、こんな事を言ったのか訳が分からない

「人がおごるって言ってんだし好意は素直に受け取っとくもんだと思うけど…
それにさっきも言ったけど俺だって悪かったと思ってんだしさ…」

「んじゃ、お言葉に甘えて」

俺の言葉が途切れた時、上手く間にすべり込ませるように入ってきた返事は肯定だった



「じゃあ俺チーズバーガー2つとポテトのL。あ、あとコーラもLで」

「…お茶、Mで単品」

「以上でよろしいですか?980円になります」

部活だって出てないだろうに何でこの量を食べられるんだ、と疑問を抱きつつ財布から千円札を取り出す

遠慮という言葉を知らないのだろうか…

当の本人は機嫌良さげな笑みを浮かべている

「君さぁ、よくそんな食べられるよね…それでそんな身長低いってどうなんだろ…」

「ウルサイっスよ。だってアンタがおごってくれるって言ったんだし」

試合中に見せたのとはまた違う笑顔でハンバーガーにかぶりつく越前君をしらけた目で見ながらお茶を飲む

そう言えば神尾がこの前ラーメン屋でどっかのオレンジ頭に痩せの大食いとか言われたらしいけど
きっとこの子もその類だろう

「伊武さんそんだけで足りんの?」

「経済事情」

「…」

サラっと単語のみで答えればポカンとした顔をされた

確かに今のは少し嫌な言い方だったか

そう思って次の言葉を繋ぐ

「ま、今日の部活短かったしね
本当に腹減ってたら普通に買ってるし」

「はい」

「…は?」

またボソボソ言い出し始めた傍からまたも言葉がすべり込んで来る

ふと越前君を見れば彼の手元には紙ナプキンに乗せられた数本のポテト

「どうせアンタの金っスからね」

「…ふーん…アリガト」

お礼を言ってポテトを受け取る

なんだかそれがきっかけになってそれまで漂っていた少しだけ居心地の悪かった空気も消えた

部活のこと、
学校のこと…
話し出してしまえばキリがない

ほとんど俺は相槌を打っているだけだけど

「へー」

「…何?」

「いや、伊武さんでもそんな風に笑うんだと思って」

…は?
笑ってた?
俺が…?

自分でも無意識のうちに頬の筋肉が緩んでいたらしい

どうにも調子が狂ってしまった

「そろそろ帰ります?もう時間も時間だし」

「あ…ん、そうだね」

越前君の言葉に
外が夕焼けを通り越して暗くなり始めているのに気気付く

部活のメンバーと居る時以外でこんなに早く時間が過ぎたという経験は初めてかもしれない

腰を上げ、帰路についたそこでも話が途切れる事はなくて
いつの間にか別れる所まで来ていた

途中越前君の顔が少し赤かったのが気になったけど

「そんじゃ、俺こっちなんで。ごちそうさまっス」

「うん……あ、ねぇ」

「はい?」

別の道を歩き始めようとした時、1番大事なことを言いそびれて彼を引き止めた

「ケガ、お大事に」

「?ウィッス」

「それから…」

その後、どうして自分があんな行動を取ったのか全く分からない

ただ、身体が動いていた

「ッ!?///」

そっと越前君の左目に手を乗せて撫でる

「…ごめん」

この前みたいに言わされた言葉じゃなく
自分の言葉で謝った

「別に、いいっス…終わったことだし」

うつむく彼の頬は完全に赤色で熱でもあるんじゃないかと手をすべらせておでこに持っていくと

「なっ…///」

さらに朱に染まる頬

もちろん触ったおでこからは大した熱は伝わって来なかった

「へぇ…」

これはいくら俺でもピンと来る
唇の端でニッと笑って踵を返した

2,3歩歩いて振り向き、言葉を投げる

「また、会いに行くから」

「っちょ…」

彼にしては珍しく慌てた顔、もしかしたらこれから先自分だけ見れるんじゃないかという小さな優越感にひたりつつ
今度は振り返らずに足を進めた

恋なんて、気付いてしまえば簡単だ

小さな星たちだけが、この一連の出来事の目撃者

☆fin...☆


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奈裕さまのサイトとのリンク記念に書いて頂きましたー☆本来は千神を書いていらっしゃるのにうちのワガママで伊リョ!
あまり見かけないCPですがすごくオススメです!

ありがとうございましたー!



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