謙光・千石攻め

□『キミを独り占め』
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「…あ。このコンビのネタ見んの久々っすわ」

「せやなー。最近バラエティばっかやもんな」

二人でコタツに入って正月ならではのお笑い番組を見ながら他愛もない話。

謙也さんの部屋はテレビもでかいし、ストーブも点いててぬくぬくしとってむっちゃ気持ちええ。それに甘えてついゴロゴロしてまう。

親とかから見たら「新年からダラダラして!」て怒られそうな状況や。


正月そうそう、俺は謙也さんちに来とって、初詣やらに出掛けることもなく部屋でまったりのんびり過ごしとった。

寒いのも人混みも嫌いな俺は毎年正月三が日はほとんど外に出えへん。
せやけど今年は「家来ーへん?」て謙也さんから電話貰ろてすんなり家を出た。まぁ家から家に行くだけやから人混みとかとは無縁やけど、毎年あまりにも出不精な俺を知っとる家族にはかなり驚かれてもうた。

…やって、一応付き合うとるわけやし、そういう関係になって初めての新年やし…、一緒におりたいて思うのは普通やろ。俺かて例外とちゃう。

で、来たわけやけど。謙也さんのことやから「初詣行くで!」とかの誘いか思てたら「家族みんな出掛けとるから気ぃ使わんでゆっくりしてやー」としか言われんで今に至る。
こういうイベントっぽいのはノリノリで行きたがる人やて聞いたことあったから予想外やった。意外とそうちゃうかったんやろか。
…まぁ俺としてはこっちの方がありがたいけど。

「謙也さんて、意外と初詣とか興味無いんすね。てっきり毎年張り切って行っとるんか思てましたわ」

「え!?…あ、あー、うん、せ、せやで!初詣なんてあんま行かへんわー!別に行かなあかん決まりも無いし。そ、そもそもこんな寒い中わざわざ行くもんでも無いやろー」

「………」

…なんや怪しい?どもっとるし、わざわざ理由考えとるっちゅーか、目も泳いどるし…

「謙──…ん?」

「…ん?」

なに隠しとるんか聞いてみようとしたら、丁度どっかからバタバタと慌ただしい音が聞こえてきて二人して首を傾げる。

…?階段上がってくる音…?


 ──バンっ!!


「うっわ!!兄ちゃんおったん!?」

突然部屋のドアが勢いよく開いて驚いた声が聞こえてきた。俺らもびっくりしながらドアの方を見るとそこには謙也さんの弟の翔太がおった。

「っ翔太!なんでお前が驚いとんねん!いきなり開けんなや、びっくりしたやんけ!」

「や、まさか兄ちゃんがおるなんて思いもせんかったし。
あ、光くん来てたんや!ごめんなさい、びっくりさせてもうた?」

俺に気づいた翔太はガラッと態度が変わってすまなさそうに聞いてくる。

「いや、そこまでとちゃうし気にせんで」

「良かったー。おおきに、光くん優しいもんな」

ニカッと笑う顔は謙也さんとよく似とる。さすが兄弟。

「俺抜けもんにすなやー!っちゅーか翔太!俺に対しての態度と違い過ぎるっちゅー話や!」

翔太は俺になついてくれとって、俺も可愛がっとる。そんな俺らの会話に謙也さんが割り込んでくるのもいつものことやった。
お互い謙也さんの反応がおもろいからワザとやってんのに気づいて無いんやろか?ま、それこそ謙也さんてカンジやけど。

「もー毎回兄ちゃんうっさいねん。光くん見習ってちょっとは落ち着きぃや。
てか、なんで兄ちゃんおるん?正月やで?」

せや。さっきも言うてたけど謙也さんが家におるのがそない変なんやろか。

「べ、別にええやろー。俺かて家におりたい時もあんねん」

「めっずらし!毎年毎年"初詣やー!"て出掛けて家にほとんどおらんやん」

「…え?」

ん?さっき初詣なんてあんま行かへんて言わんかったっけ。

「しょ、翔太!」

「なんなん兄ちゃん、慌ててどうしたん?」

「え、いや…ι」

見るからに慌てとる謙也さん。…やっぱりさっきのはウソやったんや。

「…翔太。兄ちゃんていっつも年始出掛けとるん?」

「え?うん!そらもう張り切って出掛けとんねん。日付変わる瞬間に行く!とか言うてまだ夜中の寒い時に行ったりなー」

「翔太!も、もうええからはよ出てけや!友達と約束あったんちゃうんかい!」

「あ、せや!財布忘れて取りに来たんやった。兄ちゃんの部屋テレビ付けっぱなしか思て消しに来てんやん。
じゃ、行くわ!光くん、ゆっくりしていってなー」

帰ってきた時と同じようにバタバタと慌ただしく翔太は出ていった。


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