10/15の日記

01:05
『ミスメーカー』(蔵→謙?)
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ええ人なあいつは誰にでも優しい。優しいくせにどこか抜けてて「ヘタレ」なんて後輩にも言われたりして誰もがあいつを憎まれへん。
誰にでも優しいからええ人なわけで。その優しさを独り占めなんて出来るわけもなくて。せやから少しでもその優しさを他の奴よりも俺に─、と願ってしまうんや。

「あ」
「なん──て、おい!白石、なにしとんねん!」
「なに、て。別にわざとやないねんけど」
「なに落ち着いてんねん。窓から部誌落としといて!ここ3階やぞ。下に誰かおったら危ないやろ!」
「大丈夫やって。誰もおらんかったみたいやし。良かった良かった」
「良かったちゃうわ!
ったく…最近、白石ようこんなミスあるけどボケてきてもうたん?」
「せやなぁ。ボケてきてもうた俺の代わりに元気な謙也くん取ってきてや」
「はぁ!?
…まぁええけど。俺の足にかかれば往復2分もかからんっちゅー話や!」

言い終わるや否や教室から姿を消した浪速のスピードスター。

「わざとやない、やて…」

そんなんウソ。
俺がこんなミスをする度にお前は俺に優しいやろ。
一歩踏み出してしまいそうな強い想いを抑える代わりに俺は優しさを貰う。いわば防波堤。


「ほれ。取ってきてんからはよ書きいやー」

本当に2分で帰ってきた謙也から部誌を受け取った俺はのろのろとペンを進める。

「なぁ」
「んー?」

書くのを当然のように待ってくれてる謙也との時間を長くするように。

「最近ほんまにミス多いやんか。なんかあったん?」
「別に何も無いで?」
「それやったらいいけど。なんかあったらいつでも言えや?」
「おー。言えたら言うわ」
「なんやそれ」

言わへんよ。言ったら困るやろ。それに…俺がミスするのはお前の前だけでやで。お前は気づいてないんやろうな。


「……よし。書き終わったでー。遅なって悪かったな」
「ええで別に。
よっしゃ!オサムちゃんとこまで俺が持ってってくるわ」
「え。俺が持ってくで」
「ええって、俺のが早いしな!それにまたなんやミスられても困るしー?」
「はいはい。ほな頼むわ」
「おー。んじゃ行ってくるわー」
「おー」

教室から出て行きながら謙也が言う。

「まぁ…白石がミスすんの俺の前でだけやし?大丈夫やとは思うけどなー」

「え─」

俺が声を出した時もう姿は無くてなにも言われへんかった。

気づいてた?それやったらなんで─。

…一歩、踏み出してもええのかな。

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