02/07の日記

01:14
光くんの成長
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大切なものは無くしてから気づく─

とはよく言ったもので。
でも。まさにその通りやと思った。


「財前部長ておっかないよな」
「なんや取っ付きにくいてか、近寄りがたいカンジせん?」
「もう1個上の先輩らがおった時から3年に混じって唯一の2年でレギュラーやったんやろ。天才言われてるし」
「遠山先輩かて1年でレギュラーやったらしいけどタイプ真逆やもんな」
「遠山先輩はむっちゃ話しやすいけど財前部長は話しかけずらいわ」


……。

新しく入った1年らの会話。盗み聞く気なんてさらさら無かったけど聞こえてもうた。
全国ベスト4まで行ったあのメンバーから先輩らが卒業していって、新生テニス部になって数ヶ月。
3年になった俺は部長を任されたけど今の会話から分かる通り全然こなせてなかった。
1年との連携が上手くいってへん。2、3年はなんとかなってるけど、それもみんなが俺のこういう性格を分かってくれてるからで。
…なんで分かってくれてるのか…なんて今さら考えんでも分かりきってる。

先輩らがおったから。

こんな無愛想で口も悪い俺に嫌な顔もせず構い倒して輪に入れてくれたから。特に謙也さん。思い返してみればほとんど隣におってくれて俺のこと見ててくれた。白石部長は誰よりも先に俺のテニスを認めてくれて自信を持たせてくれた。小春先輩やユウジ先輩はワザと俺の前でボケて口の悪さをツッコミに活かしてくれた。他の先輩かてみんななんやかんやと俺に構ってくれた。
せやから俺はこうして今、部長としてここに立っていられてるんや。

甘えてた。先輩らに。

今はおらん先輩らに記憶の中で頼ってどうする。あの人たちに恥じないように後輩の前に立ちたい。…いや、立たなあかん。

「…今日は練習始める前に話したいことがある。俺の、自分の話しで悪いけど聞いて欲しい」

白石部長みたいに完璧に話せなくても

「俺は口も悪いし愛想も無いから怖い思いさせてるかも知らん。せやけど、このチームで強くなりたい、て思てるのだけは本気や」

謙也さんに教えてもらった素直さを

「1人1人みんなのことを知っていきたい、俺のことも知っていって欲しい。そして、前の先輩らに負けんくらいのチームを作りたい。…いや、作ってみせる」

先輩らみんなから学んだチームワークと言う絆を

「せやから、俺について来て欲しい」

俺の代で終わらせてたまるか。

言い終えてバッと頭を下げた。まだまだ未熟でまだまだ未完成の俺の拙い言葉はみんなに届くんやろうか。

…少しの静寂の後、最初に聞こえた声はよく聞きなれたやつの声やった。

「なに言うとんねん光ー。そんなん当たり前に決まっとるやん!」

遠山や。

ゆっくり顔を上げると同時に次々と言葉が飛んできた。

「もちろん着いていくで!財前!」
「俺らもお前と同じ思いやっちゅーねん!」
「部長のこと正直怖かったけど…今は少し近づけた気がします!」
「俺らのことそんな風に考えてくれとるって知らんかったから嬉しいです!」
「着いていきます、財前部長!」

1年らの笑顔が俺に向いとった。2、3年の頼もしい面構えも俺に向けられとった。

…あぁ。届いたんや。
グッと胸の奥が熱くなった。


─その時、誰もおらんハズの後ろからも──

「頼もしなったな。財前」
「ほんまもんの部長になったで。光」
「まぁ財前にしてはようやったんちゃうか」
「久しぶりたい」
「ぬん」
「光ちゃんたら男前が上がったわ〜。改めてロック・オン☆」
「浮気か!」
「「「お!久々!」」」

聞こえてきた騒がしさに反射的に振り向けば。そこには。

「…あんたら、なんでおるんすか」

少しも変わらん先輩らの姿があった。
途端に他のみんなもわぁっと騒がしくなって各々好きに話し出す。

気づけば俺の隣には以前のように謙也さんがおって
「光が寂しがっとるんちゃうかて心配しとってんで?」
「は、誰が。俺の方が高校上がって謙也さんのヘタレに磨きかかっとるんちゃうか、て心配してあげとりましたわ」
俺も以前のように口の悪いまま返して
「いやん、光ちゃんの毒舌久々に聞いて、小春ドキッとしちゃう」
「浮気か!小春〜」
「…先輩ら、キモいっすわ」
2人のボケにツッコんで。そしてそれを苦笑しながら見てる白石部長たち。
前と全くなにも変わらんやり取り。


…先輩。

あんたらといる時だけは今もまだ甘えてもええやろか。このアホでくだらないやり取りをまだ続けてもええやろか。

この何気ない時間が俺には宝物

さっきの俺の言葉は今のチームメートにだけじゃなくて、あんたらにも届きましたか?
…いや。もう答えを貰ったりせえへん。くれる言葉なんて分かりきってる。

俺は教えてもらったことを抱き続けて、絶対にあんたらを越してみせるよ。


 だから見ててや。

 俺の大好きな人たち。



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前に日記に上げたものを転載。

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