☆神堂家のお茶の間☆

□鳥の歌:春とはじめてシリーズ.8
1ページ/11ページ

◇ 夏生視点


デビューして2年めの7月、芸能界でもすっかり知られるようになった私は、忙しい毎日を送っていたが、芸能界入りするに当たって両親から言われていた条件のひとつが学業を優先させることだったため、夏休みにはいる前のこの時期、仕事を長期に渡って休んでいた。

音楽学部の3年生はそれまでの実技の成績でオケ、アンサンブル、ソロの何れかに参加し、いわゆる発表会をする。

3日間続くこのイベントは、学園祭とは違いかなり本気で取り組むことになる。

4年生の卒業演奏会の選抜の前哨戦でもあるから、みな必死だ。

という事で、私も弦楽科のチェロ奏者として、なんとソロ部門に出ることになったのだ。

なぜ私が選ばれたのか不思議だった。

なんだかんだ言って、やはり芸能活動は厳しく、学業が後回しだったのは事実だったから。

でもせっかくチャンスを貰えたんだし、頑張るしかないよね。

で今は演奏会に向けて猛練習中。

大学でもすっかり知られるようになった私はいろいろとやりにくいのは確かだ。

一部からは、すでにプロの歌手なんだから退学すればいいのに、とか、声楽科へ転向しろとか、言われている。

まあ、デビュー前は前で、紫藤家の一員として七光りとか言われていた身としてはあまり変わらないかもしれないけど。

ここ一週間、私はほぼ一日中レッスンに明け暮れていた。

先生と相談して、今回は難易度は下げて、曲想の完成度で行くことになった。

もちろん他の生徒はかなり難易度を上げてきているけど、私の場合は練習量の面で不利だったから。

で私は往年の名チェリスト、ガザルスが編曲したカタルーニャ民謡「鳥の歌」を選んだ。

さほど難しいテクニックは要求されない代わりに、その美しく物悲しい旋律は、確かな演奏技術と芸術性がはっきりと現れる曲でもある。

そして私にとっては大事な思い出の曲だった。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ