☆神堂家のお茶の間☆
□はじめてのデート;春とはじめてシリーズ.1
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神堂さんが指定してきた待ち合わせ場所は、今日行く予定の映画館の近くにあるミュージック専門店のビルの裏口だった。
夕方なので、会社帰りの人などが行き交い、にぎやかだけど、表玄関と違って目立たない上に、すでに薄暗い時間帯なので待ち合わせしても気付かれないだろうということだった。
秋も深まり大分寒くなってきた今日この頃。
やはり夕方になって日がかげると冷えてくる。
つい両手に息を吹きかけながらすり合わせていると、ふいに後ろからふわっと温かい気配とともに首にマフラーがかけられた。
「え?なっ・・・」
驚いた私が後ろを振り向くと、そこには待ち焦がれていた彼がやさしく微笑んで立っていた。
「神堂さん。」
「待たせた?」
「いいえ。大丈夫です。」
彼に会えたうれしさで微笑む私を、神堂さんは見つめ、それから私の左ほほに手を当てて言った。
「すっかり冷たくなってる。」
そして私の首のマフラーを掛けなおしてくれる。
なんか、いろいろと世話を焼かれている子どもにかえったようなそんな気がして、気恥ずかしい。
お付き合いを始めたといってもほとんど会えないから、どこかで、まだ夢だったんじゃないかと思ったりしてしまうけど、こうしてやさしく見つめてくれる神堂さんは現実で、慣れない私はどぎまぎしてしまう。
いつしかじっと見つめていたらしく、ふと私の視線に気付いた神堂さんが言った。
「ん?どうした?」
「え?い、いえ、な、なんでもないです。」
私の慌てぶりをクスッと笑われてしまい、ますます慌てる私。
「そんなに、緊張しないで。とって食べたりしないから。」
耳元でささやかれ、恥ずかしさのあまりかっと赤くなってしまう。
(うー、心臓に悪いよー。)
神堂さんの余裕のある様子を見ると、つくづく彼は大人だなと思い、そんな彼に翻弄されてしまう子どもっぽい自分が情けなくなりそう。
「そろそろ予告編が始まる頃だから行こうか。」
神堂さんはそう言って、私の肩を抱くようにして歩き始めた。