八重桜の物語

□一章
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家に着き、いつものようにご飯を食べ、入浴を済ませ、勉強の予習復習を済ませた、月は呆然としていた。

「あーあ、左之はああ言ってくれたけど、気になることは気になるじゃない」

そうぼやくと月は立ち上がり、縁側の扉を開き、庭へと降り立った。

近藤邸は今に珍しい日本古風な作りなのだ。庭は広い。

そこから見えるのは雲もなく満月が輝いていた。

「今日は望月か……満月は人を惑わす力を持つか…………」

ただ満月を眺めていたが、何かおかしいことに気づいた。

「……?この方角に月が出ているのはおかしいわね」

本来東から昇り、移動して西に降り立つのに、今見ている月の方角は西だ。

「反対だわね……それに、今日は満月じゃないはず……どうして?」

「それは、これが夢だから」

はっきりと聞こえた声に、月はそちらに顔を向けた。

「貴方は、珊瑚さん?」

「ええ、これは夢なの……幻、だから私はここにいられるの」

近づいてきたと思ったら、ある一定の距離を保ったまま動かない。




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