小説 ふし遊
□君の匂い
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柳宿の言う通り。普段の鬼宿と翼宿のケンカは、口喧嘩が多い。互いの悪口を言い合いながら飽きるまで、誰も止めようとはしない。
だが今回のケンカは何か違うと感じた柳宿と星宿は、どちらかが殴り合いのきっかけになった言葉を言ってしまったのだろうと思ったのだ。
「さ、最初は只の口喧嘩だったんだ。だけど……」
鬼宿がケンカの原因を話し始め、柳宿と星宿は黙って聞いた。
そして翼宿は、先程の自分がやったことを物凄く反省していた。
◇ ◇ ◇
「くしゅん!」
「大丈夫ですか、美朱さん?」
「後で、風邪薬を用意しておくからな」
朱雀の巫女・美朱の部屋にて、張宿・軫宿・井宿の三人は、湯殿から上がって柳宿に貰った服を着た美朱のお見舞いに来ていた。
「うん、ありがとう」
「美朱ちゃん、オイラが髪を拭いてあげるのだ」
「えっ!いいよいいよ、これくらい」
「遠慮はなし、なのだ」
椅子に座ってタオルで髪を拭いていた美朱は、井宿の突然の申し出に戸惑って断ったが、当の井宿はお構い無しに美朱の手からタオルを奪って、髪を優しく拭くのだった。
「あ、ありがとう井宿」
「どう致しまして♪」
「鬼宿さんと翼宿さん、今頃どうしてるんでしょうか?」
「星宿様と柳宿にこっぴどく叱られているか、あるいはケンカの理由を聞き出されているかのどっちかだろう」
その言葉を聞いて、美朱は表情を曇らせて俯いた。
美朱の表情に気付いた張宿と軫宿は、状況を察して別の話題にしようと思ったが、柳宿や翼宿のようにそういうことは得意ではないのだった。
二人の様子に気付いた井宿は、髪を拭いていた手を止め、タオルを美朱から離して声を掛けた。
「美朱ちゃん、今日は天気が良いから日向ぼっこしてくるといいのだ(^^)」
「…日向、ぼっこ…?」
「オイラ、いい場所を知っているのだ。髪もそこで乾かすといいのだ」
井宿の提案に、美朱は少し考え、張宿と軫宿の方を見てみると、二人も井宿の提案に賛成するように頷いた。
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