Book・Clap
□約束
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終業のチャイムが鳴って、ホームルームは終わりを告げる。
椅子が床とぶつかる音、さようならの挨拶、靴の音。
わたしはペットボトルの生温いお茶を飲み干して、隣の席に意識を向ける。
午後の授業中、板書するにはあるまじき速度で何かを書いていたこの隣の席のクラスメイト。
つい先ほどになって慌てたように、わたしにノートを貸してほしいとお願いしてきた。
承諾しつつ興味本位で何をしていたのか聞けば、新しいケーキのアイデアを書き留めるのに夢中になっていた、と走り書きの字で埋まったルーズリーフをひらひらと振った。
ケーキ作るんだサンジくん、それくらいの感想だった。大した驚きもなかった。
でも、ペンを走らせる白い指と、そのたびに微かに揺れる金糸がとてもきれいなことに驚いて、その事に今まで気が付かなかった自分に更に驚いた。
「よし、終わった!!」
椅子が床とぶつかる音がして、我に返る。
「ありがとう。」
ノートを手渡される。
蒼い眼にわたしはどう映るのか知りたい。
「どういたしまして。」
「助かったよ。」
あどけない笑顔を向けられて、胸が可笑しな音を立てた。
「ノートくらいいつでも貸すよ。」
「持つべきは優しいクラスメイト!…あ、おれバイト行かないと!遅刻しちまうとオーナーうるさいんだ。じゃあね!」
まだ見ていたいのに。
「…うん、じゃあね。」
さようならの挨拶と、遠くなる靴の音。
ひとりになって思い出した白い指や金色の髪、蒼い眼や意外と幼いあの笑顔に、また胸が可笑しな音を立てた。
fin