Book・Clap

□二度寝
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ここはわたしと同じ大学に通う恋人、ゾロの家。

大学生が一人で住むには丁度良いワンルームのアパートだから、色々な音で目を覚ますことが間々ある。


今は、歯ブラシのしゃかしゃかという音。



ゾロは確か今日、午後から講義のはず。時計を見るとまだ早い。
寝ぼけ眼で音の元へ向かった。


「ゾロ、おはよ。」
「おぉ、おふぁよ。」


口元に泡をつけながら、歯ブラシを忙しく動かしている。

鏡越しに見えるゾロはとても眠そうだ。その斜め後ろに映るわたしも。


「もう学校行くの?」
「ふぉこう。」


補講、か。


「じゃあ、今日はずっと学校?」
「いや、ごご、きゅうこう。」


「そうなの?」
「おぅ、じしゅきゅうこう、ら。だから、へめぇ、ここでまって…、」


ぶくぶくとうがいをして、わたしを振り返るゾロ。


「…昼寝でもしてろ。おれぁ、終わったら真っ直ぐ帰ってくるからよ、」


不意にわたしは、額にゾロからのキスを受けた。


「いい子にしてろよ。」


耳元で囁いて、髪を一撫でしたゾロはまたせわしなくリビングへ戻った。


ぼうっとした思考のまま、どきどきと速い鼓動。

洗面台の前で立ちすくんでいると、鏡に再びゾロが映った。


「行ってくる。」
「ん、行ってらっしゃい。」

いい子で待ってます、と続けると、ゾロの横顔が心持ち綻んだ。



バタン、ガチャガチャ。
扉が閉まって鍵がかかって。


いい子で、と約束したからには言い付けを守らなければと考えたわたしは、早速再びお布団へ包まった。


シャワーを浴びて着替えて化粧して、という時間を差し引いてもまだまだ時間はある。

ゾロのいない、ゾロの家で、ゾロのお布団に包まって、ゾロの大好きなお昼寝を楽しめる時間が。


とんとん、というゾロが階段を下る小さな足音は、案外心地好い子守唄だった。



fin

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