Book・Clap
□雪見酒
1ページ/1ページ
雪見酒。
ゾロのそんな言葉につられ、夜更けの甲板へ足を運んだ。
うっすら雪化粧の船は、すっかり晴れた夜空に鎮座する月に照らされてやたらと美しく、
隣で瓶から直に酒を呷っては悪そうな眼でわたしを見下ろして、
口端を持ち上げて。
無性に挑発的だ。
しばらくしてゾロの手を離れた酒瓶は鈍い音を立てて転がり、
足元の純白は零れたアルコールに溶かされていく。
だから頑なに酒だけを抱いていた逞しい腕は、次にわたしを抱きしめるだけの腕となった。
いつもよりほんの少し低い体温に
「ゾロ、…愛してる」
伝えるのは儚い雪のような言葉。
ゾロの腕の力が心なしか強くなり、
「……、おれもだ」
伝わってきたのは揺るぎない月明かりのような囁き。
潮騒が心地好い。
夜明けは遠い。
fin