Book・Z V
□斬る者
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おれは、斬り捨てることで前に進んできた。
刀を振るうのは、目の前に敵がいるからだ。剣士がいるからだ。
骨を砕く感覚、返り血、絶命の呼吸。
たくさんの人を殺めた。
いくつかの死線も越えてきた。
今日は骨のない敵だった。
屍を眼下に刀を鞘に収める。
――剣に迷いがあってはいけないよ
昔、先生にそう言われた。
「おれに迷いなんて、……あるわけねぇ」
何となしに見遣った屍肉は、おれの言葉を否定しているように見えた。
おれは斬り捨てることでしか前に進めないだろう。
だからいつの日か。
いつの日か、おれはお前をも斬り捨て前へと進んでいくだろうか。
前へ、前へと。
この心臓が止まるその時まで。
fin