Book・S
□混ざる
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夜の帳が落ちてしばらく経ったキッチン。
いつものようにコックさんは手元に視線を落とし、静かにお仕事をしている。
いつものようにあたしも正面のカウンター席に座ってその姿を眺める。
「お待たせ。」
コトリ、とテーブルに置かれたのはコーヒー。
今日はちょっと甘いのが欲しい、と言ったからかコーヒーにはクリームがのっている。
あたしはティースプーンを手にとってクリームを一匙食べた。
真っ白なそれは、一口くちへ入れればほんのりコーヒーの香り。
するすると甘くほどけるように舌で溶けていったと思えば、柔らかな苦味が残る。
―――このクリーム、コックさんみたい。
『ふふっ。』
自分の思考に不意に笑いが漏れる。
「お気に召しましたか?ミサちゃん。」
いつもの笑顔であたしを見るコックさん。
『ええ。美味しいわ。』
そう告げると、コックさんは満足気な様子であたしに微笑みかけ、作業を続けるためか目線を下に戻した。
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