Book・S
□ある夜
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愛情を込めすぎちまったホットミルクのせいだろうか。
ミサちゃんは空のマグカップを胸に抱いたまま、上半身をソファに預けすやすやと眠っている。
その寝顔は、海賊とはまるで思えないようにあどけねェ。
―――緩やかに閉じられた瞼、仄かに赤い頬、少し開いた薄い唇。
おれはこんなミサちゃんを見る度に、ミサちゃんは腕の良い職人が作った精巧な飴細工なんじゃねェかと心から思う。
しかも、その類い稀なる細工をおれだけに向けたい衝動に度々かられている。
おれはどうかしちまったらしい。
けれども、幸か不幸かおれはその本能にも似た衝動に素直に従う勇気など、持ち合わせていねェ。
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