Book・S
□櫛
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幼い頃に遊んだ色水を思い出させる淡い水色の空。
雲はまるで薄く広げた真綿のよう。
首を捻れば、儚気な金色が目に映る。
その色彩にあと一寸で夕刻なのだと知る。
ミサに時折冷たい風が吹きつけるが、そこはメインマスト。
為す術はない。
段々と冷えていく身体を持て余していると、ロープの軋む音がした。
少し驚いて音の先を見れば、片手にマグカップを持ってロープを登るサンジ。
「隣、いいかい?」
『ええ、もちろん。』
ミサが身体を少し横へずらすと、トンッと軽快な音と共に先程の声の主が姿を現した。
静かに腰をおろすと、マグカップを差し出す。
「どうぞ。ミサちゃんの好きな蜂蜜入りの紅茶だよ。」
受け取ったマグカップはとてもあたたかくて笑みがこぼれる。
『どうもありがとう。』
「プリンセスの一人が見当たらないと思ったら、珍しいところにいるね。」
『…ん。』
―――プリンセスの“一人”、か。
きゅっと締め付けられる胸に息が苦しくなって、気を紛らわせようと渡されたマグカップに口をつけた。
『…おいしい。』
胸は相変わらず締め付けられたままだが、身体中に染みるあたたかさと甘さが嬉しい。
「お褒めにあずかり光栄です、プリンセス。」
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