Book・Z V

□味わって
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バレンタインが誰だとか。
その人が何をしたのかだとか。
なんでチョコレートを贈るのだとか。


わたしは知らない。
山のようにある書籍から学ぶ気にもならない。



それよりも今は、


「…、ゾロ。いくよ?」
「おう。いつでもこいよ」


目の前の事実が好き。



口に含んだ自作のチョコレートドリンクは、甘すぎず、けれど濃厚で我ながら上出来。


しかし、今はそれを飲み下すことはできない。
なぜならゾロの、ありがとな、の後に続いた


ミサ、どうせなら飲ませろ。口移しで。


という言葉があるからで。
驚いたわたしの沈黙は、肯定と受け取られていた。


それから顎を心持ち上げ、流し目で、ほら、と言われてしまえば、わたしに反論の余地はなくなった。



そっと顔を近づける。

伏し目がちでも尚、真っ直ぐに見据えるゾロの瞳を一瞥して、わたしは目を閉じた。

最早、感覚で分かるゾロの唇にわたしの唇を押し当て、その隙間から甘い液体を少しずつ流し込む。

それを受け取るゾロの熱い舌。

口に含んでいたのは大した量でなかったから、すぐにわたしの口内にはチョコレートの後味だけが残った。

それとゾロの喉が、こくん、と鳴ったのはほとんど同時。


そっと顔を離すと、満足気な笑顔のゾロが見えた。


「旨かったぜ。ごっそさん」
「良かった」


「お代わり、していいか?」
「もちろん。今度は自分で飲んで?」


「いや、食わせろ」
「……え?」


「あー……、ミサを抱かせろ、っつた方が正しいか?」


返事は待たれず抱き寄せられて、首筋にキスが落とされる。



ふわり香るチョコレート。


今は、この事実が、好き。


fin
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