Book・Z V
□無体
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「おら、好きって言えよ」
「……」
わたしたちは普段から、好きだの愛してるだのとむやみやたらと言い合う関係ではない。
ないけれど、わたしの知る限りではお互いを愛しいと思っている。
だから、言えと言われれば言いたい。
伝えたい、のに。
「言え。ミサ」
右頬の親指、左頬の他四本の指で口元を摘まれている状態のわたしに言える訳がない。
……こんなめちゃくちゃな話ったらない。
「言わねぇつもりか。良い度胸だ」
「……、ろろ!」
わたしは舌が上手く回らないどころか、絶対に可笑しな顔をしてゾロを見上げているのだけれど、ゾロはそんなこと気にも留めていない風に続けた。
「だが、好き、つーまでどこにも行かせねぇぜ?」
「……」
真剣そのものの瞳で、尚も凄まれる。
このままでは、埒が明かない。
わたしは見下げるゾロを精一杯睨みつけて、不自由な口唇を動かした。
「……、う、い」
我ながら何とも間抜けに特別な言葉を発した途端、ゾロの口角がぐっと持ち上がり、眼光が変化する。
わたしの頬を押さえ付けていた指の力は、なくなっていた。
咄嗟に、自分の手で微かな痛みの残る頬を庇うように触れると、
「……かわいい奴」
ふ、と柔らかく笑うゾロがいた。
「……そんな言葉じゃごまかされないわ」
「ごまかしてねぇ」
「行動の意図がみえないもの」
「おれはな、ミサの、」
そう言って、急にばつが悪くなったかのように頭をがしがしと掻き、
「……困った顔も好きなんだよ!かわいいと思ってんだよ!悪ぃか!」
照れ隠しか、自棄っぱちに言葉が吐かれた。
……もちろん、わたしだってゾロの困った顔も好きだから。
先ずは背伸び。
隙をついて頬を捕らえ、手指に力を入れて、形勢逆転。
呆気にとられるかわいらしいゾロを真っ直ぐ見詰めて、
「……ほら、ゾロ。好きって言ってごらん?」
「……」
「言えるでしょう」
「………………う゛、い、ら」
自らの緩む頬は捨て置いた。
fin